鉄血作戦を阻止せよ マックス・モス |
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作家 | スティーヴン・L・トンプスン |
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出版日 | 1986年09月 |
平均点 | 7.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 7点 | 人並由真 | |
(2021/02/11 16:37登録) (ネタバレなし) 1980年代の半ば。西ドイツ空軍准将で名門出身のフリードリッヒ(フレディ)・フォン・グラバウは、第三帝国の悪行の禊ぎは終わった、もはや東西両陣営の思惑で愛する母国がこれ以上、分断されるのはまっぴらだと思う。フォン・グラバウは、労働階級出身の同士ヘルムート・シェーナー大佐を相棒に、西ドイツ在留のソ連のミサイル基地を占拠。総計7メガトンの核ミサイルを東西両陣営の主要都市に向け、米露英仏の在留軍の24時間以内の撤退を命じる。折しもポツダムの軍事連絡部(奪還チーム)に復帰していたマックス・モス少尉は、露英仏の選抜軍人とともに、クーデター側の布告の真偽を確認に向かうが。 1986年のアメリカ作品。ただし本作からのマックス・モスもの第三~四弾は、日本の読者向けに新規に執筆。刊行も日本先行なので、ある意味、日本作品といえるかもしれない。 要はそれだけ当時の日本で大人気だったし、作者も主人公マックス・モスも「奪還チーム」も親しまれていたわけだが、2020年代の現在では本サイトに作家名すら登録されていない。まさに諸行無常はなんとやら。 まあその辺のシリーズの盛衰に関しては、当然ながら本シリーズの大設定を一瞬で破壊した、1989年のベルリンの壁崩壊という現実が背景にある。 知らない人のために簡単に説明すると「奪還チーム」の大設定は、40年にわたって東ドイツの一角にさる事情から治外法権的な西側陣営の自由な拠点があり、そこを基地にして高速で移動できる車輌チームが、東ドイツの領土内に不時着したパイロットや機密物件を迅速に回収してくるもの。それでその任務をになう主人公が、スーパー・ドライビングテクニックを持つ青年マックス・モスというわけだ。 時と場合、物語の流れにおいては、当然のごとく、敵陣営などの高速車輛や航空機との追っかけっこ、になり、これに応じて細部にリアリティを宿すためメカニック描写も当時ながらに濃密になる。この辺は要は、大人向けのITC作品(『サンダーバード』や『謎の円盤UFO』ほか)の興趣ともいえる(※)。 それで評者は、20代の大昔にシリーズ第二作『サムソン奪還指令』まで読了。フツーに面白いと思っていたが、その後、ちょいと油断して三冊目を未読のうちに、現実のドイツがそんな状況になり、さらにミステリも全体的に読む数が減ったため、この3冊めを手にしたのは実にウン十年ぶりとなった。 (少し前に近所のブックオフの100円棚で見つけ、懐かしくなって買ったのだ。) 今から見れば、現実のベルリンの壁崩壊が実はほんの少し先に迫っていながら、作中のリアルのなかで母国併合の理想に必死になったフォン・グラバウ一派の行動はなんとも切ない。もちろんやっていることは流血クーデターであり、脅迫テロではあるが。 お話としては、謀略クーデターの対象がほぼ全世界規模。なのでこれをどうやってマックス・モス(と前線の仲間たち)に焦点をあわせて「ポリティカルフィクション・スリラー」<「カーチェイス活劇」に変換するのかと思いきや、中盤で予想以上にわかりやすくストーリーの流れが整理されて、その意味ではやや拍子抜け。 一方で、大きなプロット上のどんでん返しではなく、細部を書きこんで、シーソーゲーム的な逆転劇の連続で読み手を楽しませようという作者の狙いも明確になるので、これはこれでよろしい。 最後まで読み終えての感想は……まあ、マックス・モス側はある種のハードボイルドだよね。一方で、本作のもう一方の主人公フォン・グラバウ側は妙にリリカルに描写がまとめられていて、書き手がこの悪役一味にある種の感情移入をしたことがうかがえる。 実際、訳者・高見浩の解説を読むと、作者は本書の執筆後に、フォン・グラバウ視点での、この事件の顛末を語ったアナザーストーリーを書いたらしい。 (悪党パーカーとアラン・グロフィールドシリーズの分岐&接点みたいだ。) 全体としては期待通りに楽しめた80年代のエンターテインメント。ただし、今の世代の読者がもし興味をもったら、できればシリーズ第一弾から読んでほしい。 このシリーズの前二冊が好きなファンなら、たぶん楽しめるでしょう。 ちなみにシリーズ第四弾は、そんなベルリンの壁崩壊以降の設定で、マックス・モスの立ち位置も大幅に変わるらしい。大設定を喪失してなおも続くシリーズって、マック・ボランみたいだね。 (まあその第四作めもブックオフの半額セールの日に50円で買ったので、そのうち読むと思う。) 【追記】 マックス・モスが窮地からの脱出に使う道具が、日本の雑貨。さらにまた別の彼のピンチで役立つのが、日本人の教官にならった体術。日本読者向けのサービスなんだろうけれど、作者の妙な律義さが愉快であった。 【追記その2:2021/2/11/22時25分】 ※……『謎の円盤UFO』は大人向け、一般向けの番組でしたね。すみません。 |