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ミステリの祭典

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アウトブレイク―感染

作家 ロビン・クック
出版日1988年03月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 tider-tiger
(2021/02/10 15:43登録)
~「当院で怖ろしい伝染病が発生した、力を貸してほしい」
ロサンゼルスのクリニックから疾病管理センターに知らせが届いた。センターの新米女医マリッサが先鋒として派遣される。患者は頭痛、高熱、出血などの症状がみられ、一気に増悪して次々と死亡していく。クリニックの閉鎖、交通の遮断など実施しながら定石どおりに感染経路を探っていくマリッサだったが、彼女は奇妙なことに気づいた。~

1987年アメリカ。浦賀の医療ミステリを書評したついで+たまにはリアルタイムなものをということで本作も。リアルタイムとはいっても作品自体はずいぶん古いが。
医療サスペンスの礎を築いたロビン・クックの(『コーマ―昏睡』から数えて)七作目の長編。一般的にはエボラ出血熱がまだそれほど知られてはいなかった頃に書かれている。裏表紙で――エイズ時代の戦慄をこめて放つ――などと謳われているのが時代を感じる。
全体的な構図としては無理筋(目的と手段が見合っていない)のように思えるが、市中に生物兵器が投じられる危険性を示した点は当時としては新しかったのではないかと思う。全体の流れはいつものロビン・クック。ヒロインがいささか身勝手で猪突猛進型なのもお馴染み。そのうえ彼女はモゴモゴ(差別的表現とされそうなので自主規制)。ロビン・クックを読んでいると女医に罹ることに不安を感じてしまうくらいだ。
話自体はなかなか面白い。いつものロビン・クックであり、安定感ともマンネリともいえるその作風は堅実な娯楽性がある。医学的な問題について警鐘を鳴らすといういつものテーマも健在だ。
医学知識としてはずいぶん古びてしまったところあるも、感染症対策の基本的な考え方は変わっていない。ただテクノロジーの進歩により現在では感染症対策がそのまま人民の統制に利用できてしまったりする。
本作の悪役はマヌケ過ぎるので減点。黒幕が見え見えなのも減点。あと犯行態様がちょっと乱暴すぎるのではないかと。フランシスの『利腕』で使われたアレなんかを用いればもっと秘密裡にことを運べたのではないかと考えてしまう。
ラストは「え? そっちなの?」という感じ。個人的にはあっちの方がはるかに好感をもてたのに。

今回のコロナ禍でいくつかわかったことがある。
致死率がそれほど高くはないウイルスで都市機能を麻痺させるような生物兵器を作ることが可能であるということ。
無症状でも他人に感染させ得ることがいかに恐ろしいことであるかということ。

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