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ミステリの祭典

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ガラスの墓標

作家 F・S・ジルベール
出版日1971年01月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2021/02/10 04:31登録)
(ネタバレなし)
 アメリカ裏社会の「組織(コーザ・ノストラ)」の実戦要員で、デトロイトで成果を上げた青年クリフ・モーガン。彼は組織の上層部に呼ばれ、フランスへの出張を命じられる。表向きの目的は、組織と縁があるパリ暗黒街の要人トニー・カルボナを支援してカルボナ麾下の殺人請負組織を作ること。だが組織の真の狙いは、カルボナが抱える麻薬売買シンジケートをクリフに乗っ取らせることだった。密命を受け、カルボナとともにパリに向かうクリフ。しかしオルリー空港を出た彼は、何者かの待ち伏せを受けて重傷を負う。頼る相手もないクリフは、たまたま旅客機の中で知り合った美人のパリジャンヌ、カトリーヌに、電話で救いを求めるが。

 1965年のフランス作品。1969年に映画化され、71年の日本での映画封切りに合わせて邦訳が出た原作小説だが、評者はくだんの映画はまだ未見。

 あらすじの通り、やさぐれた青年ギャングと運命的に出会った美女のラブロマンスを交えたコテコテのノワール・ハードボイルドで、55年前の旧作ということを踏まえてもまだ古い。1930年代あたりのクラシック・ノワールといわれて読んだとしても、ほとんど違和感は生じない主題の物語だ。

 中盤からはクリフの反撃、彼のもとに召喚される組織の応援、さらにフランス暗黒街側の応戦と策謀と、絶えずストーリーは動的に進む。ただし筋立てそのものは全編にわたって実にシンプルというか、素朴。
 とはいえ「これはあくまで旧作」という認識が強くなって、同時に期待値が下がってくると、ストーリーの組立には王道の物語を語ることにおじない、そんな力強さも感じられてきた。結果、これはこれで悪くない、という気分になってしまう。
 フランスミステリのノワールものの系譜、その一冊を探究するつもりで読むならば、佳作として楽しめる、というところか。

(とはいえ、あのジョセ・ジョバンニのデビューは1958年で、本書『ガラス~』が書かれた1965年には、もうジョバンニの方は7冊も長編を上梓してるんだよな。
 そういう事実を勘案すると、この作品って本国フランスのミステリファン&読書人全般の間で、どういう評価で読まれたのかとちょっと気になってくる。
 そのうちマジメに、わかる限りの<フランスミステリのお勉強>を、改めてしてみようかしらん。)

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