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ミステリの祭典

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血液魚雷

作家 町井登志夫
出版日2005年09月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 メルカトル
(2021/01/30 22:29登録)
放射線科医・石原祥子のもとに搬送されてきた心筋梗塞の患者は、かつての恋人・羽根田医師の妻、緑だった。だが、冠動脈に詰まった血栓の除去手術中、透視画像に映り込んだのは、血流に逆行して移動する不気味な影。羽根田医師の強硬な主張により、その正体を解明すべく試験稼働中の“アシモフ”が投入されることになった。それは、挿入したカテーテルからナノ単位のビームを照射し、血管内をリアルタイムに撮影する世界初の装置だった。“アシモフ”のゴーグルを装着し、血管内世界を体感していく祥子。やがて彼女の眼前に現われたのは、ミサイルのごとき形状とプロペラのような鞭毛を備えた謎の物体であった…人体という異世界を舞台に、極小存在と人類との息詰まる攻防戦を描いた、現代版『ミクロの決死圏』。
『BOOK』データベースより。

人間関係とかサイドストーリーなど何するものぞとばかりに、迫力だけで押し通すハードSF、或いは医療サスペンス。いきなり心筋梗塞患者を手術するシーンから始まり、その時点で既に本筋に入っています。
この作者は何者?と思うくらい医療に詳しく、調べてみたら普通のSF、推理作家で医療従事者ではありませんでした。それだけ様々な文献を参考にし、現役医師のアドヴァイスを受けて勉強していたようです。とにかく直球勝負で、動脈を脳から心臓、四肢の細部に至るまで縦横無尽に疾走する異物の正体を突き止めようとするシーンの連続です。その様は確かに往年の名作映画『ミクロの決死圏』を彷彿とさせるものです。アシモフを操縦しながら物体Aを探る一方、サブでそれを魚群探知機の様に位置を確定させ、それを撮影していく過程は凄い勢いを感じます。

エピローグで明かされる意外な真相はミステリにも通じるもので、その手掛かりは読者の前にあからさまに晒されており、異物の正体を推理する事も可能になっています。
第3回『このミス』大賞の最終選考にまで残った本作は、まさに骨太の力作と言えるでしょう。医学の知識に疎い一般の人でも十分に楽しめるエンターテインメント小説に仕上がっていると思います。

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