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ミステリの祭典

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死の輪舞

作家 石沢英太郎
出版日1980年11月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 人並由真
(2021/01/28 06:58登録)
(ネタバレなし)
 その年の2月6日の夜。福岡県のドライブイン「暁」の駐車場で、初老の男が刺殺された。被害者の素性は、住宅詐欺で指名手配中の土建ブローカー・井上博一だとやがて判明する。かたや殺人が起きた時、その現場にいたと思われるナンバーの車が捜索されるが、同じ夜、長崎県西海橋の上にその車は放置されていた。置き去りにされた車の状況から、ドライバーは海中に投身自殺を図ったと推されるが、間もなくその車の主は、土建会社「協和建設」の総務課長・宮坂真佐夫と判明。宮坂には県の開発公社への不正な贈賄の嫌疑がかけられており、彼はその引責で自殺したのかとも思われた。微妙な接点で結ばれる二つの死だが、さらに事態は周囲の関係者の怪異な連続殺人事件へと発展してゆく。

 元版の新書「Futaba novels」版で読了。
 同書のジャケットには「本格推理ジェノサイド/キーワード―最後に笑う者は誰か。」との煽り文句が掲げられていて、外連味あるフレーズが読み手をソソる。

 先行する石沢作品『21人の視点』でも実行された、過剰なまでに叙述の視点を切り替えて物語を細かく細かく語っていくスタイルが、今回も再現される。とはいえことさら煩雑になることもなく、全体のストーリーをほぼスムーズに読ませてしまうのは、ベテランの職人作家の芸。

 ただし後半から堰を切ったように展開される連続殺人劇、その真相はギリギリまで解明を引っ張った割に、実は大したことはない。<犯人>も見え見え。
 何よりウリにしているハズの二つの事件の関連性については、作者自らが自分に難しめの課題を呈しておきながら、結局はそれに見合う面白い回答を用意できず、つまらないありきたりの説明をつけて矛を収めてしまった感じ。

 物語全体の真相そのものは、まあ意外……ともいえるが、肝要に関わる人間関係の書き込みが薄いので、あんまりトキメキも覚えない。
 というか(中略)の(中略)って、わざわざムダなことしてないか?

 けっこう面白いんじゃないかな? と、楽しみにしながらとっておいた未読の作品を読み始めたが、残念ながらショートゴロぐらいの出来か。
 まあ途中4分の3か5分の4くらいまでは、そこそこ(ラストまでにはなんかあるんじゃないかとの期待が持続して)それなりに楽しめたかも。
 ただ最後まで読んでアレコレ考えると、やっぱりこの<犯人>の行動はヘンだったりする。狙いが成立しないでしょう?
 
 まあこの作品については、そんなところで。

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