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ミステリの祭典

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361
別題『361―復讐する男ー』/私立探偵エド・ジョンソン助演

作家 ドナルド・E・ウェストレイク
出版日1967年01月
平均点8.00点
書評数1人

No.1 8点 人並由真
(2021/01/25 06:49登録)
(ネタバレなし)
 3年間の空軍生活から除隊したばかりの「俺」こと、23歳の元航空兵レイモンド(レイ)・ケリー。帰郷したレイは、弁護士である55歳の父ウィラードの出迎えを受けるが、家に向かう途上で何者かに銃撃されて、父親と自分の片目を失った。病院で静養するレイは、さらに兄のビルの愛妻アンまでが何者かにひき逃げされて死亡したと知る。一家を狙う者がいる、それは父ウィラードのこれまでの弁護士稼業にからむ因縁か? と考えた兄弟は、復讐のための調査を始めるが。

 1962年のアメリカ作品。
 評者は今回、HM文庫版で読了(ポケミス版も持ってるが訳者は同一、ならば本文に再チェックが入っている? 文庫版の方がよいか? とも思ったので)。

 でまあ、感想だが、十分に面白かった。
 鮮烈な導入部を経て迎える前半の大筋は、大藪春彦か西村寿行のバイオレンス小説を読むようなごく純粋な復讐行の道筋。
 そんな前半では、父親をすぐ脇で射殺され、片目まで失った主人公のレイ。愛妻アンを轢き殺されたビル、その双方に順当に、復讐を望む原動はあるわけだ。
 が、一貫して攻めの姿勢のレイと、復讐のためとはいえど極端な荒事には及び腰になるビル(しかしそんな一方で、感情の抑えもききにくい)……という対比が強調的に印象づけられて、ああこれは、こんな二人のキャラクターの違いを活かした後半の展開になるの……かと思いきや(中略)。
 いや、中盤からさらに予想外の方向に話が転がっていくのだが、それでも物語当初から火がついた主人公の情念が鎮まることはない。
 というわけで、部分的には先読みできるところもないではないが、これこそよくいう「予想を裏切って期待に応えた」一冊。
 ワンシーンワンシーンごとに見せ場を設けつつ組み上げられる、二転三転する作劇は、実に読み応えがあった。

 ただし作品総体としてはかなりまとまりが良い分、それがかえって突き抜けた迫力を生み出せなかったきらいもある。そのため、傑作や優秀作まで至らず、あくまで秀作の域にとどまった感じも?
 個人的に最高にテンションを感じたくだりは、やはり中盤の(中略)の場面であった。

 なおかつて小鷹信光のエッセイ「パパイラスの船」でも触れられていたが、本作のサブキャラとして活躍する中年の私立探偵エド・ジョンソンは、かつてウェストレイクの初期短編の何本かで、主人公を務めたこともあるシリーズキャラクター。
 本作では主人公の兄弟を親身な立場で支援するもうけ役をもらい、これがジョンソンのウェストレイクの小説世界での最後の活躍になったはず。
(わかりやすい例え話でいえば、クリスティーの1940年代以降のノンシリーズ長編とかでいきなりあのパーカー・パイン氏が登場して、一回きりの主人公を応援してくれるようなイメージだ。)
 のちのちの諸作でも、けっこういろんな読者サービスが旺盛なウェストレイクだけど、この作品でもそういった嬉しい趣向が用意されていた。

 最後に、タイトルの数字「361」とは「Roget's Thesaurus of Words and Phrases」なる文献を出典とする「生命の破壊、暴力による死(殺すこと)」を表意した分類ナンバーらしい。HM文庫版の巻頭に(たぶんポケミス版にも?)その旨の記載がある。

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