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ミステリの祭典

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少女ティック 下弦の月は謎を照らす

作家 千澤のり子
出版日2021年01月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2021/06/09 22:22登録)
(ネタバレなし)
 昭和と21世紀の景観が同居するような下町。北里小学校小学生で5先生に進級したばかりの片瀬瑠奈は、老女に扮した謎の人物によって暗い部屋に監禁された。犯人の正体も動機も不明、この監禁場所も未詳。瑠奈は連絡を取れる外部の人間=携帯ゲームのすれ違い通信で出会った顔も知らない「フレンド」たちに救助を求めるが、そんな彼女はゲーム内でも何者かによって閉じ込められてしまう。(「第一話 少女探偵の脱出劇」)

 女子児童・片瀬瑠奈を主人公にしたエピソードが語られる、全4本の連作中編ミステリ。彼女のゲーム内のフレンド「下弦」(本名は~)がもうひとりの探偵役となる。
 誘拐や殺人事件など、狭義の「日常の謎」をはみ出したような主題も織り込まれるが、基本は瑠奈の出会う日々の生活の場やその延長の世界でのホワットダニット、ホワイダニットが主軸。
 特に第二話の<少女の冒険>を描く遠出編などは、仁木悦子の児童ものあたりを、時にダークめにもなるあの雰囲気を守りながら21世紀に再生したら、こんなになるんじゃないか、という感じ。ゲスト登場人物が妙に強烈なキャラクター(リアルなのかしらね)の第三話なども、よかれあしかれ心に残る。

 ちなみにこの連作は2016~17年にかけて光文社の「ジャーロ」に連載されたものだったらしい。だったら光文社で本にしてやれよという気もするが、完結後3~4年も経ってからマイナーな出版社(翻訳ものミステリでゲリラ的に頑張っている行舟文化)からようやく出版された。この出版不況のなか、連載作品の書籍化も保障されないというわけか。
 そういう事情だからかどうか、このシリーズ4本をまとめた書籍には(中略)な新規エピローグを書き下ろしで追加。
 こういうものが来るとは思わなかったので、軽く驚いてしまった。詳しくは言えないからここまで。なんか数十年前の、あの作品の書籍化、当時のあの新刊を思い出したりする。
 新規のエピローグそのものの評価はちょっと保留したいが、全4本、それぞれなかなか独特な味わいはある連作ミステリ。
 評点は0.5点ほどオマケ。

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