home

ミステリの祭典

login
楽園伝説

作家 半村良
出版日1975年01月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点
(2021/01/29 08:31登録)
 マンモス企業・超栄商事のエリート課長伊沢邦明は、失踪中のかつての上司・島田義男の轢逃げ事件に出くわしたことから、巨大な地下組織の存在を知る。その組織は、大企業の秘密をネタにサラリーマンの楽園(パラダイス)を作ろうとしていた。平凡なサラリーマン生活に飽きていた伊沢は組織に接触し "王者の愉悦" に耽溺する・・・
 しかし、楽園をめぐり利害の対立する組織対組織の戦いは熾烈をきわめ、やがて伊沢自身もその渦中に巻き込まれていくのだった。伝奇推理の旗手・半村良が、直木賞受賞後最初に放つ長編 "伝説シリーズ" 第三弾!
 〈伝説シリーズ〉三作目にして半村良の第11長篇―― のハズなのだが、何故かオフィシャルサイト「半文居」(https://hanmura.com/)の著作リストには無い。本サイトの書籍データでも出版月は「1975年01月」となっているが、手持ち本の奥付には「昭和50年3月20日 初版第1刷発行」と記されている。この年には『雨やどり』での74年度下半期直木賞受賞を受けて、代表作『妖星伝』一部二部や『戦国自衛隊』『死神伝説』『夢の底から来た男』など、確認しただけでも六長篇三短篇集が刊行されており、かなり混乱していると思われる。とりあえず上記のNON NOVEL版裏表紙の解説を信じて、『亜空間要塞の逆襲』に続く十一冊目の長篇としておく。
 シリーズ中でも第二作『英雄伝説』と並んで評価の高い作品。内容もそれに違わず、謀略スリラー風の出だしから主人公の立場も二転三転していく。各社の機密情報を持ち寄って超党派の連合組織を構築し、現代サラリーマンを集めた秘密結社、奴隷たちの楽園を作り上げるという「パラダイサー」の発想は秀逸だが、読み進むとそれすらも既成権力の企みのうち、という事が判ってくる。だが「パラダイサー」の中にも〈シダ〉と呼ばれる彼らの預かり知らぬ組織が組み込まれており、その僅かな綻びがやがて静かな、しかし圧倒的な侵略の波へと繋がっていき・・・
 凝った筋立てと陣営を替える毎に切り替わる、主人公・伊沢の視点と認識の変化が読み所。初版袖の〈著者のことば〉によると伝説シリーズは「どれもタイトルは物語の入口だけを示し、その先までの道案内にはならぬよう心がけている」「もともとSFをふつうの小説と同じように読んでもらうことが、SF作家としての私の願いだった」とある。〈伝奇推理小説〉を謳ったシリーズだが、やはり半村はこれを日本SFの一作品として描いているようだ。ただ本書は、スリラーとして見てもなかなか秀逸。瑕瑾があるとすれば〈髭だらけの男〉こと林の正体が、最後まで不明な事くらいか。間接的なマインドコントロールの発想は、同年発表の海野十三風謀略SF『不可触領域』に、更に引き継がれてゆく。採点はやや甘くして7点。

1レコード表示中です 書評