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ミステリの祭典

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黄金伝説

作家 半村良
出版日1973年02月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点
(2021/01/06 15:00登録)
 防衛庁を操り、首相をも怯ませる“闇の巨人”来栖重人について調査を進めていた新聞記者は、怪光を発して飛び立つ円盤と、光る小人のように見える宇宙人を目撃した。仲間たちと共に縄文土偶の謎に誘われ、古代黄金の眠る伝説の地、奥十和田へ向かった彼は、そこで来栖の恐るべき素顔に出会う。新機軸の黄金伝説を構想豊かに描く、半村良の傑作伝奇推理長編。
 1973年7月刊。同年3月に発表された大作『産霊山秘録』に続く著者の第四長篇で、以降続々執筆される〈伝説シリーズ〉の第一弾。古代出雲神話を題材とする第五長篇『英雄伝説』とは同時刊行ですが、シリーズとしてはこちらが先になるそう。本書の場合、北東北・十和田八幡平国立公園近辺に独自の地名を付け加え、青森県戸来村のキリストの墓伝説やギリシャ神話、更にはUFOなども絡めて壮大な物語に仕立てています。
 NON NOVEL版では「長編伝奇推理小説」と銘打たれていますが、実の所は人類進化を扱った純粋なSF。そのリーダビリティは高く、赤江瀑「罪喰い」等と共に、昭和48年度第69回直木賞の候補作になりました(ちなみにこの時の受賞作は長部日出雄『津軽じょんがら節』と、藤沢周平『暗殺の年輪』)。ただし審査員評は芳しくなく、選考委員を務めた松本清張には「勝手に日本地名をつくるのは困る」とのお叱りを食らっています(笑)。なお第27回日本推理作家協会賞候補にも挙がっていましたが、こちらでは小松左京『日本沈没』に競り負けています。いずれにしろ楽しみながら読める作品なのは間違いないでしょう。
 冒頭でいきなり時の首相を圧倒し、暗殺者を無造作に殴り殺す怪人物が登場。彼の力で世界第一位に迫らんとする経済力を付け、超軍事国家へと突き進む架空の日本国。そのあと場面は一転し、湯水の如く金を使う傲慢な老人・湯平弥一と、知らぬ間に彼の援助を受けて大家にのし上がった画家・堀越正彦。この二人を中心にして、彼らの血族や周囲の人間たちが描かれていきます。
 原爆投下直前の広島で、正彦の愛を受けた弥一の娘・規子も双子。彼女が再婚して生んだ雄一郎・大二郎の兄弟と、妹の則子が生んだ従姉妹の香取公子・明子姉妹も双子。明子から生まれた姉妹も双子。作中でポルックスとカストルの双子星に喩えられるふたごたちの暗喩を軸に、物語はやがて弥一主導の青森県・北戸来高原での宝探しへと一気に雪崩込むことに。『石の血脈』に比べると、風情のある小物の点景描写などにも格段の進歩が見えます。
 残念なのはやはり後半駆け足気味なこと。トレジャーの舞台は十分に練られており、地図までついてワクワクさせるのですが、ラスボス来栖の出現からは急転直下。デウスエクスマキナ的な逆転劇で、あれよあれよという間に終わってしまいます。清張先生寸評のようにドタバタとまでは言わないけど、もう少し尺が欲しかったなあ。面白いんだけどそんな訳で、採点はギリ6点。

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