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ミステリの祭典

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半七捕物帳 巻の四
三河町の半七

作家 岡本綺堂
出版日2001年12月
平均点8.00点
書評数1人

No.1 8点 クリスティ再読
(2020/12/03 20:27登録)
さて半七の四巻目は、最初の4作が大正末年に書かれたもので、綺堂はとりあえず半七はこれで打ち切り、というつもりだったようだ。しかし昭和9年に野間清治に口説き落とされて、「講談倶楽部」に連載するようになった。だからこの巻の内容は、時間的なブランクがあって、5本目の「十五夜御用心」からが昭和の半七である。
やはり後半の昭和の半七は、プロットが複雑化している印象が強い。大正の半七だと、1話に2つの話が入っているケースもあって、語り尽くさずに余韻を残して、あっさり終わる傾向があった。また殺人が絡まないケースも多く上品な後味だったのが、昭和の半七になると、ずっとこってりした味わいになってくる。
大正末の「三つの声」は意外にパズラー風の面白味がある。ちょっとした言葉遣いから、半七が犯人の計略を見破る面白味。いや本作とやはり凝った詐欺を題材にした「仮面」は、「新青年」に掲載されたようだ。読者層を意識してミステリ色を強くしたのだろうか。「むらさき鯉」はお濠での密漁とそれをうまく引っかけようとする悪人との角逐の中で起きた死の話...とかなり込み入った話。

で、昭和は力作「十五夜御用心」で始まる。虚無僧と住持ら4人が井戸から死体で見つかる、派手な事件であり、話の紆余曲折があってページ数も多くなっている。投身者が抱えていた蝋燭の芯が金の延べ棒...という怪死事件を追う「金の蝋燭」、浅草観音の御開帳での縁で嫁に入った女の自殺事件を追う「大阪屋花鳥」、絵馬マニアの暴走とそれを強請る悪人の「正雪の絵馬」などなど、読み応え十分な話が続く。
まあだから、昭和の半七の方がやはり「捕物帳」らしいカラーが強くでてきたようにも感じる。すでに「右門」も「平次」も始まっている時代だからね。それでも後続の捕物帳とは一線を画す格調とリアリティがあるのは、さすが別格、という印象。

評者のように、ホームズ、コンチネンタル・オプと並行して読んでいると、やはり半七はオプと並んで、ホームズの一番まっとうな後継者のようにも感じられてくるのだ。犯罪事件を通じて、社会の表も裏も描いて見せる、そういう鳥瞰的な「社会へのまなざし」を継承したのが、「パズラーの名探偵」たち以上に、半七とオプだったのでは...と思うのである。半七もオプも、ホームズ同様に読むと彼らが「生きた」社会が作りモノではなく立ち上がってくる。この面白味なんだと思うんだ。

(あとどうでもいい話。江戸の粋な食べ物。この本だと半七、「あられ蕎麦」を食べている。いいな~青柳の貝柱が乗っているかけ蕎麦。今はよほどの老舗しか出さないらしい。一度食べたい。)

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