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ミステリの祭典

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木島日記

作家 大塚英志
出版日2000年07月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 メルカトル
(2020/11/14 22:38登録)
昭和初期。オカルト、猟奇事件、右傾化が吹き荒れる東京。歌人にして民俗学者の折口信夫は偶然に、しかし魅入られるように古書店「八坂堂」に迷い込む。奇怪な仮面で素顔を隠した主人は木島平八郎と名乗り、信じられないような自らの素性を語りだした。以来、折口の周りには奇妙な人、出来事が憑き物のように集まり始める…。ロンギヌスの槍、未来予測計算機、偽天皇、記憶する水、ユダヤ人満州移住計画―昭和の闇を跋扈するあってはならない物語。民俗学者・折口信夫の名を騙る仮面の古書店主・木島平八郎が偽史の時代を“仕分け”する。超民俗学伝奇小説の傑作、登場。
『BOOK』データべースより。

正直大塚英志、舐めてました。この人、色んな大学や研究センターの教授や講師だったんですね、偉い人だったんです。漫画の原作者兼作家としか思っていませんでしたので、ちょっと見直しました。通りでこの作風はこれまで読んだ作品とは一線を画すものとなっています。折口信夫の近代文学史の金字塔とまで言われた『死者の書』が偽書として本人が脱稿する前に古書店の棚に置かれていたという導入部から、怪しげな人々や民俗学に纏わるアイテムが登場し、まさに幻想小説の如き様相を呈してきます。これは最早奇書と呼んでも差し支えないでしょう。夢か現か幻か、物語が紡ぐ幻視を見せられることになります。二転三転するストーリーは既に私の理解を超えてしまいます。とは言え、伝奇小説のエンターテインメントとして屹立する、孤高の決して日の目を見ることのない幻の怪作だと思います。

個人的には前半に登場する月という女性のエピソードの話をもう少し膨らませて欲しかった気もします。しかし、折口と言い木島と言い土玉と言い、何故このような変人ばかりが出てくるのでしょうかね。美蘭や一ツ橋も真面とは言えないですし。当然一般受けはしないと思いますが、隠れた支持者がいることは確かなようです。

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