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ミステリの祭典

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中国冒険譚 小説マルコ・ポーロ

作家 陳舜臣
出版日1979年02月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点
(2020/11/13 02:55登録)
 雑誌「オール讀物」に、昭和53(1978)年2月号から昭和54(1979)年1月号まで連載されたもの。大元皇帝クビライ・カアンに17年間仕え、帰国後『東方見聞録』でヨーロッパに中央アジアや中国を紹介した13世紀のヴェネツィア人、マルコ・ポーロがクビライの密偵を務めていた、との考察で描かれた連作短編集である。陳氏らしく処々歴史的事実や『元史』などの史書に触れているが、〈中国冒険譚〉と副題にある通り、推理・謀略関連の要素を含んだ創作物である。とはいえ『秘本三国志』ほど重くはなく、内容は軽め。歴史的事件にマルコが絡むなどといった事は無い。
 全十話の章立ては 冬青の花咲く時/移情の曲遅し/電光影裡春風を斬る/燃えよ泉州路/南の天に雲を見ず/蘆溝橋暁雲図/白い祝宴/明童神君の壺/男子、千年の志/獅子は吼えず 。年代的には元の至元十五(1278)年から至元二十二(1285)年までの、約七年間について語っている。
 主な出来事は崖山での南宋王朝の滅亡(1279年2月)から二度目の元寇(弘安の役=1281年)まで。前半から中盤にかけては、南宋の遺臣や南人(降伏した南宋人)たちが物語に積極的に絡んでくる。壺合戦や猛獣調伏などイロモノ系の後半より、話としてもそちらの方が面白い。旧南宋領で権勢を振るった福建のアラビア商人・蒲寿庚がマルコに一杯食わせる「燃えよ泉州路」などは、なかなか凝っている。
 他にも一万二千人が参加する式典〈元正受朝儀〉での殺人を扱った「白い祝宴」など、推理系の話はあるが総合的には薄味。文天祥の死やラマの妖僧・楊璉真加一味との対決という形で結構を整えているとはいえ、最後は目に見えて投げていて、陳氏の歴史小説としても正直ファンアイテムに近い。
 連載開始の同年1978年8月には、毛沢東の死去および鄧小平の復権を受けて日中平和友好条約が締結。一種の中国ブームが到来しており、堺正章・夏目雅子主演の日本テレビ開局25周年記念ドラマ「西遊記」(1978年10月~1979年4月)や、NHKテレビアニメ「マルコ・ポーロの冒険」(1979年4月7日~1980年4月5日)などが放映されていた。
 1980年4月からは日中共同制作の全12回シリーズ『シルクロード 絲綢之路』がNHKで始まり、これには陳氏自身も監修者として加わっている。本書もそうした時流に乗り執筆されたものであろう。ちなみに一世を風靡した久保田早紀のシングルレコード「異邦人」のリリースも、1979年10月の事である(笑)。4点にしようかとも思ったが、流石に歴史考証等はしっかりしているのでギリ5点。

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