暗い階段 ランス・オリアリ―警部&サラ・キート婦長 |
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作家 | ミニオン・G・エバハート |
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出版日 | 1958年01月 |
平均点 | 7.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 7点 | 人並由真 | |
(2020/10/13 20:10登録) (ネタバレなし) その年の7月。「私」ことベテラン看護婦のセアラ・キートは、1年前から「メラディー記念病院」の夜勤婦長のひとりとして勤務。現在はこの病院の理事長本人であるピーター・メランディが入院しているので、その専任介護を務めていた。だが7月7日の夜、病院のエレベーター内で、医師のひとりが刺殺死体で発見される。さらにほぼ同時に病床のピーターがいずこかへと姿を消し、病院周辺を隈なく捜してもその行方は杳として知れなかった。やがて、製薬会社の社長でもあったピーターが医療用の画期的な麻酔薬を開発していたことも判明。だがその製法の機密もどこかに秘匿されていた。セアラは懇意にしている警察官ランス・オーリアリー警部の到着を待ちつつ、事件の手記をしたためるが……。 1931年のアメリカ作品。 数年前に発掘翻訳された長編『夜間病棟』でデビューした探偵コンビ、ランス・オリアリ―(本書では、~・オーリアリー)警部&サラ・キート(本書では、セアラ・~)婦長が活躍するシリーズの第四作。 かねてよりこの作品に興味はあったが、邦訳の「六興推理小説選書(六興キャンドルミステリー)」版(1958年に刊行)は稀覯本。同叢書のなかでもトップクラスで入手難で、ヤフオクなんかに出品されてもヘタすれば5ケタ行く! あー、と思っていたら、このたび同人出版でゲリラ的な復刻版(版権的な調整は済ませてあるらしいが)が出たので、それを購入。こちらもウン千円とけっこう高いが、状態のよいきれいな本でレア作品がこの値段で自由に読めるのなら……とお金を払った(ちなみに、この復刻版もすぐに売り切れ。先日のヤフオクでは、2~3倍の落札価格がついている……)。 それで何とはなしにTwitterでこの復刻版『暗い階段』の噂を拾っていたら、ある人のtweetで犯人やトリックには触れないまま、終盤には<かなりの大技>を使っているということが判明。「え!?」と思って、読んでみる。 改めて、復刻版を刊行して下さった方、そしてTwitterで(ネタバレにはならないように節度を守りつつ)情報を教えてくれた方、ありがとう。 でもって読了しての感想だが、正直、中盤はかなり退屈(汗)。 女主人公セアラの手記はとりあえず読み進める限りはまっとうで丁寧だが、起伏が少なく、本当の名探偵オーリアリーが来るまでの警察の捜査を繋ぎ的に延々と綴っているだけ。眠気を誘う。さらに捜査官のラム警部補が関係者の名前を間違える繰り返しギャグなんかこれ見よがしに行うもんだから、ますますかったるい。 とはいえ肝心のオーリアリーの登場は本当にギリギリのギリギリまで引っ張られ、その甲斐あって終盤にはかなりテンションが上昇。 お待ちかねの趣向も、ああ、やってくれました! という感慨を呼ぶ。 (実際、ミステリ史的な探究ポイントとしては、作者エバハートがほぼ同時代の「あの作品」を意識してしてこの趣向をやったのか? それとも本当に偶然に、近いタイミングでこの作品が書かれたのか? であろう。) でもって<その趣向>そのものはたしかに(当時としては~類似のものがすぐ近くにあったとはいえ~)ダイナミックで実に痛快なんだけれど、伏線や情報の前もっての出し方、フェアプレイの作法など、いささか疑問が残らないでもない。このへんがなかなか真っ当なパズラー作家になりきれなかったエバハートらしい、といえば正にそんな感じ。 あと、決め手となった手掛かりも、21世紀の日本人にはまずピンとこないとは思う。 まあそれでも(雑なところ、手をかけられるところはまだまだあった感じだけれど)、得点的に見ればメインのその終盤の趣向に限らず、作品後半のサプライズの見せ方、事件のパーツの組み上げ方など、評価ポイントも少なくはない。なによりミステリらしい外連味に、アレコレこだわってくれた作品の作りは、十分に褒めていい。 それにしても60冊ほどのランス・オリアリ―警部&サラ・キート婦長シリーズの中から、真っ先にこれを選んで最初に紹介した編集者(田中潤司か?)の慧眼にはあらためて驚かされる。まあ向こうの書評で、バウチャーとかバークリーあたりが褒めていたのかもしれないけれど。 |