(2020/10/06 22:38登録)
(ネタバレなしです) 英国のR・オースティン・フリーマン(1862-1943)の法医学者ソーンダイク博士シリーズは国内ではシャーロック・ホームズのライヴァルたちの1人と紹介されたためか短編ミステリー作家の印象が強そうですがシリーズ長編も21作が書かれており、しかも短編が書かれたのは1920年代までで1930年代以降から最晩年までは長編執筆にシフトしています。8作を収めた1909年発表の本書がシリーズ第1短編集です。雑誌掲載時に付けられていた証拠写真が本国での単行本では割愛されてしまいましたが、国内で全3巻にまたがる「ソーンダイク博士短編全集」(国書刊行会版)ではこの写真が復活しているだけでなく日本独自の見取り図まで付いています。原典に忠実とは言えないかもしれませんが、個人的にはこの編集はいい読者サービスだと思います。証拠の提示に後出し感があるのは書かれた時代を考慮するとやむなしで、論理重視の推理説明が早くも発揮された本格派推理小説が揃ってます。短編2作分のボリューム(中編とまでは言えないでしょう)に丁寧な法廷場面を詰め込んだ「鋲底靴の男」、オカルト要素が不気味な雰囲気を醸し出す「清の高官の真珠」、深海の砂という珍しい証拠品が印象的な「深海からのメッセージ」、ユニークな密室トリックの「アルミニウムの短剣」など意外にも個性に富んでいます。
|