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ミステリの祭典

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右門捕物帖(一)

作家 佐々木味津三
出版日1982年09月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 クリスティ再読
(2020/09/27 14:45登録)
評者の「五大(か七大)捕物帖」もいよいよ右門で一通りになる。けどね、右門は全38編で作品数はそう大したことはないんだが、電子書籍以外では現役の新刊本は存在していない。かつては映画でもTVでも人気だったのだけど、「もはや過去の作品」ということにはなる。
で...なんだが、都筑道夫が本シリーズを嫌いまくって、「捕物帳を怪奇スリラーに貶めた」と批判して、ミステリとしてはなってないからミステリとして書き直したりとか、あるいは発表当時でも「旗本退屈男」の方だけど三田村鳶魚に「大衆文芸評判記」のなかで「時代物を全く時代知識なしで書く。その胆力は感服すべきものであるかもしれないが」と皮肉られるなど、批評面では散々なことでも有名でねえ。
しかし、スタイル的には半七はそれ以降の「捕物帳」ではないわけで、一般に「捕物帳」とされるスタイルを作り上げたのが、この「右門」であることは動かしえない。主人公とその相方(右門なら「おしゃべりの伝六」で、ガラッ八の先輩になる)との軽妙な掛け合い、ライバルの「あばたの敬四郎」(平次なら三ノ輪の万七)の鼻を明かす活躍、草香流柔術やら錣正流居合切りやら、平次の投銭に相当する必殺技...と、キャラクター配置は右門で完成するわけだし、

明皎々たること南蛮渡来の玻璃鏡のごとき、曇りなく研ぎみがかれた職業本能の心の鏡にふと大きな疑惑が映りましたので...

といった「語り物」調の平明な語り口も、平次に採用されたわけで、本当に銭形平次が右門の模倣から始まっていることは言うまでもないくらいだ。
事件はというと、八丁堀のお組屋敷の花見の座興で清正虎退治がすり替わって虎役が殺される「南蛮幽霊」、旗本の寝所に毎晩生首が届けられる「生首の進物」、忍城下で腕利きの侍の右手が辻斬りに逢う「血染めの手形」、山王権現の祭礼で将軍上覧の前で牛若に扮した商家の主人が毒死する「笛の秘密」...と派手で発端の怪奇性は十分、なんだけど、右門は「明知神のごとき」とか、そういうわけで論理性もへったくれもなくて、真相を看破してしまう。だからミステリと思って読むとけっこう、ばかばかしい。辻褄の合わない話も多いしなあ。

けどね、乱歩の通俗物やジュブナイルに通じる駄菓子の面白さがあるわけで、生暖かい目で読むには、そう悪くない。明智探偵=むっつり右門、というくらいに読めばいいんだろうと、思っているよ。縄田一男も乱歩が「多彩な美と、ギョッとさせる怪奇と、その間を縫って、苦み走った好男子むっつり右門が、颯爽と縦横に歩き回っている」と評したのを引いて、乱歩と味津三の相通じるあたりを突いている。

捕物帳を系統的に読むなら、やはり右門は外せない。

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