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ミステリの祭典

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預言

作家 ダニエル・キイス
出版日2010年05月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 小原庄助
(2020/09/03 09:36登録)
「アルジャーノンに花束を」から半世紀を経て、80歳を超えた後の長編小説の本作は、従来の人間心理探究をモチーフに据えてはいるものの、その全体は9.11同時多発テロ以後に渦巻く国際テロ組織の謀略を中心にした、エロスとヴァイオレンス満載のスパイ小説のスタイルで貫かれているのだから、驚くしかない。
主人公は、天才的な女優的資質に恵まれながらも境界性人格障害や妄想性統合失調症などに苦しみ、精神科病院で治療を受ける金髪の美女レイヴン。彼女がふとしたことで記憶してしまった預言詩の中には、マルクス・レーニン主義を標榜するギリシャ人中心の17Nとイラン人中心のMEKという二大組織が手を組んで米国に仕掛けるテロ計画が暗号として刷り込まれており、そのため彼女はテロ集団に誘拐されるばかりか、FBIやCIAからも追い回される。
だがレイヴンは、実は死んでしまった双子の妹ニッキを今も心に同居させている多重人格者でもあり、転んでもただでは起きない。時には007のボンドガールもかくやと思われる過激な攻勢に出る。かくして同時多発テロを超える陰謀は、いとも意外な結末を迎えるのだ。
ちなみに、レイヴンの名はエドガー・アラン・ポーの名詩「大鴉(ザ・レイヴン)」による。それが、今は亡き美しい恋人への挽歌だったことを思い出せば、クライマックスの衝撃は一層心を打つだろう。

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