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ミステリの祭典

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花夜叉殺し
赤江瀑短編傑作選 <幻想編>

作家 赤江瀑
出版日2007年01月
平均点8.00点
書評数1人

No.1 8点 クリスティ再読
(2020/08/30 22:24登録)
赤江瀑は、本当に書きたいと思います。なのでリハビリの一環で。
赤江瀑の本領は長編じゃなくて短編にあるのだけども、雑誌掲載~単行本化の本来の短編集は、単行本も文庫も絶版久しくて、何度も編まれたアンソロも手に入りにくい...という状況も、電子書籍化で最近は救われた感があります。まあだったら、アンソロでも一番作品が完備した光文社文庫の三冊の傑作選を読めば、赤江瀑のアウトラインが掴めることにもなると思う...なので、まずは<幻想編>。
といえ赤江瀑だからどの作品も<幻想>で<情念>で<恐怖>なんだから、サブタイトルに大した意味はない。どっちかいえば京都奈良の古寺にちなんだ話をまとめた印象。でこの本は「花夜叉殺し」「獣林寺妖変」「罪喰い」と代表作級3作で始まり、話の筋立てからすればミステリ以外の何物でもない「正倉院の矢」で終わる10作品を収録。

「ミステリの祭典」なので一番ミステリらしさのある「正倉院の矢」を例に取ろう。主人公はかつて姉とその婚約者と故郷の村を沈めたダム湖に遊び、その時にボートの事故で姉を喪った過去があった。十五年後に正倉院御物の「投壺の矢」の写真を見て、それがボートの事故の際に拾った木切れのものだということに気づいた主人公は、故郷の街を再訪して、その事件の真相を知る...まあこんな話。で、この矢はボート沈没の仕掛けに使われたものだから、トリック?みたいなものでもある。うん、形式的には完璧にミステリ、なんだけど、読後感は全然そうじゃない。これが何というか、赤江瀑らしいんだよね。
事件の動機はこの婚約者の家に連綿と伝わる、投壺の矢を使った秘密の性戯にあって、その異様な性戯の呪縛から逃れようとする婚約者と、その呪縛を払うためにその犠牲に捧げられた姉、そして姉の妊娠とその子の真の父親...とミステリとしては明らかに余計な「異様なモノ」とそれを巡る情念のドロドロに作品の力点があるわけである。まあだから「ミステリとは完全に地続きなところ」に赤江瀑の世界はあるんだけども、その実、ミステリ...じゃないと、評者は思う。

でこの「異様なモノ」の「モノ語り」として、赤江瀑の作品は強烈なのである。「モノ」という言葉に鬼や神霊を畏怖して言う用法があるわけで、「花夜叉殺し」なら花の匂いで性欲を刺激して人間を虜にする麻薬のような庭、「獣林寺妖変」なら古寺の血天井とルミノール反応で怪しく光る新しい血痕、「罪喰い」なら新薬師寺の伐折羅大将像の怒り顔に似た木彫りの像、その像の背後には「都美波美黒人」=「罪喰み黒人」との墨書が....というような、「異様なモノ」と、それに執着する人間の情念の結晶が作品の動力なのであって、その結末は大概殺人やら自殺に終るのだけど、それは結果に過ぎなくて、どうでもいいのである。この「モノ」が覗かせる「人間の生の裏側の世界」にどうしようもなく魅せられてしまい、その中に引きずり込まれるプロセス自体が、読者を魅了するのだから。
なので小説としては常に赤江瀑は過剰で、ストーリーに必要な要素、と見たときには余分で余計な心情やエピソードが、これでもかと盛り込まれる。それは作品の論理でも割り切れない、異様な執着にしか見えないのだ。この過剰さが赤江瀑の作品の捉えどころのない印象につながっているようにも思う。しかし、この過剰なエピソードが、いつまでもいつまでも読者の心に傷を残すことになる。「罪喰い」なら死者の体を餅でぬぐって「死者の罪」を移して、それを食べる葬送儀礼を強いられる黒衣の被差別民「罪喰い」のイメージなんぞ、本当に悪夢的としか言いようがない...このイメージの暗黒さが、ミステリ以上にミステリな、と言いたくなるような魅力に満ちている。

というわけで、赤江瀑、というのは「ミステリの兄弟」のような一つのジャンルだと思う。未体験の人は試しにいかが? でも魅せられても、知らないよ。
(個人的には「刀花の鏡」も好き。ちょいとBLっぽい味あり)

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