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ミステリの祭典

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裏切りの国

作家 ギャビン・ライアル
出版日1982年01月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点
(2020/08/07 07:45登録)
 二年の刑期を終えてイスラエルのベイト・オレン刑務所から出所する相棒、ケン・キャヴィットを迎えるため、東地中海のキプロスに十二ケースのシャンペンを運ぶ仕事を請け負った英国空軍崩れのパイロット、ロイ・ケイス。だが空港に到着するや否や雇用主の〈キャッスル・ホテル・インタナショナル〉が倒産したことを告げられ、管財人の会計士、ルーキス・カポタスに機を差し押さえられた上に、債権者の到着までホテル〈ニコシア・キャッスル〉で働かされる破目に陥ってしまう。
 トラブルにもめげず、ホテルでケンと落ち合う段取りを付けるロイ。彼の話では、ベイト・オレンで知り合った中世考古学者、ブルーノ・スポール教授父娘も〈キャッスル〉に宿泊するようだ。どうやら教授が逮捕される前、イスラエルで掘りあてたなにかを巡る儲け話があるらしい。
 前祝いにと、ロイはホテルの開業パーティに使われる筈だった積荷のシャンペンケースを開ける指示を出す。だが箱から出てきたのはクルーガー・ロイヤル六六ではなく、軽機関銃五丁と一千発の弾丸だった。彼は〈キャッスル〉に嵌められたのだ。おまけに代わりのシャンペンで祝杯を挙げた教授はその夜のうちに、拳銃で頭を半分ふっとばして自殺してしまう。
 教授の謎の自殺により足止めを食らうロイとケン。さらに出先のバーでは義足のベイルート商人、ウスマン・ジェハンジールや、モサドかもしれないイスラエル人、ベン・イヴェールらが纏わりついてくる。彼らの目的は空輸された銃器か、それともスポール教授が発見したという十二世紀の遺物、"獅子王"リチャードの剣なのか? 二人は銃の始末を目論むとともに教授の娘ミッツィ・ブラウンホフを助け、メトロポリタン美術館の中世史学者、エリナー・トラヴィスと共に、時価百万ドルにも相当する宝剣の行方を追うが・・・
 『死者を鞭打て』に続くギャビン・ライアル七冊目の長編。1975年発表。マクシム少佐シリーズに至る直前の作品で、文庫版裏書きには「ライアル自らベストに推す」とあるが、出典不明なのでこれが事実かどうかは解らない。ただ粗筋は面白そうなので、邦訳当初から気にはなっていた。発表前年の1974年、トルコ軍の軍事介入により南北に引き裂かれたキプロス共和国と、ベイルート及びエルサレムを舞台にしている。
 だがやはり初期四作に比べると薄味。捻ったアクションや荒天を突いたエアランディング、小粋な会話や幾つものガジェット、豊かな国際性に加え錯綜する筋立てと、確かにライアルの味はするのだがぶっちゃけ着膨れ気味。謎の自殺に続くホテルの従業員殺しも引っ張った割には呆気なく、同じパイロット物でも『ちがった空』クラスの密度は望むべくもない。けっして悪い作品ではないけれど。
 原題"JUDAS COUNTY"の通り結末はドロドロ。三重四重に裏切られた挙句、シビアにして無慈悲なエンディングが待っている。最後の決定的な裏切りは、警部の間の悪い登場が無ければ防げたのだろうか。

 「本当?」エリナーの声は、第三氷河期のどこかから聞こえてくるようだった。

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