home

ミステリの祭典

login
戦場の画家

作家 アルトゥーロ・ペレス・レべルテ
出版日2009年02月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 tider-tiger
(2020/07/05 21:03登録)
~戦場カメラマンのフォルケスは戦争を描いた壁画の作製に勤しんでいた。写真では表現しきれない戦争を残しておきたかったのだ。そんなある日、クロアチアの元民兵を名乗る男がフォルケスの元を訪れる。かつてフォルケスの写真の被写体となり、それがために筆舌に尽くしがたい苦痛を味わったという。男はフォルケスに「おまえを殺す」と宣告する。だが、すぐには殺さない。わたしはあなたのことをもっと知りたいと男はいう。こうして元カメラマンと元民兵の奇妙な対話がはじまるのだった。~

2006年スペイン作品。のべ6日間にかけて行われる対話と二人の回想がほぼすべてである。二人の世捨て人が戦争の法則を紐解いて、戦争の壁画を構築していく物語とでもいうのか。個人的には罪と悪の違いについて再考させられた。
多大なる緊張下で行われる知的なバトルは負ければ死に直結する(と自分は考えながら読んでいた)。元民兵は学のある男ではなかったが、物事の勘所を的確に捉え、厳しい環境を生き抜いてきたこともあってかフォルケスの本質を冷徹に見抜いていく。
戦場カメラマンの葛藤、撮影者と被写体の関係、写真と絵画の違いなどから哲学的な問いについて考察がなされていく非常に面白い作品ではあるが、けっこう理屈っぽくて難しい部分もある。絵画の知識がある程度あった方がより愉しめる。
どうしてフォルケスは警察に保護して貰わないのだという疑問が浮かびそうだが、二人が生きてきた世界には警察の保護などというものは存在しない。
衝撃的なフォルケスの告白のあとの静かなラストは解釈が分かれるところではないかと思う。
とても面白かったが、広義のミステリーにすら入るかどうかギリギリのところ。フォルケスの恋人に関する謎など、謎はいくつか存在するもののミステリーとしては弱いので採点は6点とします。

著者の作品は本作と映画化されている『ナインスゲート~呪いのデュマ倶楽部』しか読んでいないが、本作は最初に読んで作者の作品の案内図としてもよし、作者の集大成として最後に読むもよしという気がする。

1レコード表示中です 書評