home

ミステリの祭典

login
ハードボイルドの雑学
小鷹信光

作家 事典・ガイド
出版日1986年05月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2020/06/07 03:46登録)
(ネタバレなし)
 1986年5月にグラフ社から全書判サイズで刊行。同社の叢書「グラフ社雑学シリーズ」の一冊で、小鷹信光が本文の95%くらいを著述。一部の記事を木村二郎、宮脇孝雄、池上冬樹といういかにもな三氏が協力執筆している。

 帯には「ついに登場! ハードボイルド小百科/ビギナーには花も実もある入門書! したたかな読者には一味違う情報ファイル!」とあり、本文の内容は
・第一章 ハードボイルド小説ファン必携
・第二章 私立探偵紳士録
・第三章 ハードボイルド旅行案内
・第四章 ハードボイルド商品カタログ
・第五章 ハードボイルド犯人追跡
・第六章 ハードボイルド雑学の「雑学」
 の6パートで(大別して)構成。

 第一章は、ハードボイルドミステリの定義、文学史、現実とフィクションの相関、主要作家と関連雑誌などの記述で、ここをしっかり読むだけでもかなりの学習・復習にはなる
(国産ハードボイルドミステリの名作リストに一部間違いがあるのは惜しいが)。
 第三章は著者自身の訪米記をからめた、各作品の物語の場の探訪(いわゆる名所巡り)、第四章は銃器や衣装(トレンチコートとかソフト帽とか)やクルマなど。第五章が作中での探偵たちの捜査やそのあとの司法処理などにちなんだ実例(ミステリ内の)の網羅。
 最後の章がハードボイルドミステリ映画そのほかのア・ラ・カルト記事になっている。
 
 細部での情報のわずかな誤記を別にすれば、広くそれなりに浅くなくよくまとめた、トリヴィア読み物記事本という感じで十分に楽しめる。ただし本書の刊行以降に日本で発掘邦訳された作品(たとえばポール・ケインの『裏切りの街』などは何度か話題になるが、この時点ではまだ未訳扱い)や、その後、改めて注目度の高まった作家(トンプスンとか)などもあるので、21世紀の現代に読むなら受け手側のその辺の若干のアップトゥーデートは必要か。

 ちなみにライオネル・ホワイトの既訳作品という主旨で『メリウェザー事件簿』という聞いたことのない題名がいきなり出てきたので「え?」となったが、これは結局、角川で刊行されている『ある死刑囚のファイル』のこと(主要キャラの名前がメリウェザー夫妻)。こーゆーのはカンベンしてくれ。まだこちらの知らない既訳作品がどっかのマイナーな版元から出てたのか?! と思わず期待してしまったではないか(笑・涙)。

 あと、終盤に掲載の「『マルタの鷹』クイズ」を読んで、サム・スペードの作品世界とコンチネンタル・オプの世界が公式(?)にリンクしていると教えられて、愕然とした。この本で一番驚いたのはコレ! こーゆーことをいいトシになっても知らなかったとは、評者もまだまだ修行が足りない(汗)。

 まあ、総体的には、いろいろ楽しい本ではある。とにもかくにも全体的にお喋り本で、軽めなのは良かれ、悪しかれ(?)ではあるのだけど。

1レコード表示中です 書評