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ミステリの祭典

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謎の紅蝙蝠
お役者文七捕物暦

作家 横溝正史
出版日1976年12月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 クリスティ再読
(2020/06/06 19:02登録)
横溝正史と言っても、金田一とは違って、捕物帳はちょっとした魔界のようだ。人形佐七なんて1938~68年までの30年間書き続けたわけで、由利先生より金田一より活躍期間は長い。しかも戦前は人形佐七だけじゃなくて、朝顔金太だの服部左門だの鷺坂鷺十郎だの左一平だの緋牡丹銀次だの多士済々きわまりないし、しかもこれらの主人公作品をのちにちゃっかり人形佐七モノに書き直していたりする....と実際、わけがわからない。最近では捕物出版からオンデマンド本で出たり、論創社からレア物が出たりとかして少しは整理されてきたようではある。

でこのお役者文七は戦後生まれなので、身元は他の時代ヒーローよりはっきりしている。1作目の「蜘蛛の巣屋敷」以外はすべて「週刊漫画Times」連載というのが面白い。「週刊漫画Times」は今もあるね(オヤジマンガ誌だ...)。週刊漫画雑誌の草分けで、初期のナンセンス漫画中心だったころに連載されていたようである。主人公の文七は、旗本大身のご落胤でありながら、訳あって歌舞伎役者の養子になったが身を持ち崩し、今では岡っ引きの居候。役者修行をしたからには女にだって化けれる美男(佐七も美男だしなあ)。町奉行大岡越前や与力の池田大助の信も厚く..という設定。岡っ引きでなくて遊民で、フリーの江戸の冒険者みたいな立場。長編4作、中編3作で活躍。第1作は映画化。
4作目の本作は養父の一座に新たに加わった加賀出身の役者菊之助に彫られた紅蝙蝠の隠し彫りと、十七年前に御金蔵を破った紅蝙蝠一味との因縁の話。その千両箱の隠し場所を示した地図を巡って、稀代の毒婦「御守殿のお美代」が菊之助を騙すところから始まり、次第に紅蝙蝠の残党が絡んでくる...養父の一座の役者を守るために文七が事件に介入して宝の地図の奪い合いに一枚噛むことになる。
そういう話なので、ミステリ色は薄いです。悪女お美代のキャラが一番立ってるな。で、このお美代を巡ってエロ描写は濃厚。横溝正史が達者に書き飛ばした時代劇スリラーで、通俗と言えばまあ、通俗の極みみたいな作品だ。

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