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ミステリの祭典

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銭形平次捕物控傑作選1 金色の処女

作家 野村胡堂
出版日2014年05月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 クリスティ再読
(2020/06/04 17:40登録)
文春文庫の傑作選から。「櫛の文字」みたいな「ミステリな平次」もいいんだが、それでも「銭形の親分らしく」ないや。で、少し不満が溜まったから、ふつーの傑作選から。

表題作は平次のデビュー作で伝奇スリラー風な作品。将軍家光の鷹狩りの危機を平次が救うなんて、まあファンタジーだけど、キリシタンバテレンな邪法の儀式とか、怪奇色もあり。お静さんとはまだ交際中で、偵察を頼んだら拉致されて悪魔の生贄に...そういう話。アタマを空っぽにして読むといい(苦笑)平次だからね、「悪魔の生贄」でもアザトくならずに品がいい。
まあ、平次は半七じゃないから、時代考証は今一つだけど、絵になるシーンは多い。「お珊文身調べ」は刺青自慢大会が登場。親分も背中に六文銭の刺青を入れて...(ホントかな?)十二支を彫った粋な姉御と白蛇の男との因縁は?
ミステリだとどうしても商家の殺人ばっかりになりがちだが、武家が絡んだ話も多いわけだ。家宝の紛失を解決する「名馬罪あり」や、諸藩の軍事機密扱いの「兵糧丸」を巡って本草学者が誘拐されて殺される派手な事件の「兵粮丸秘聞」、子供の誘拐事件に絡む「迷子札」など、武家を相手に回しての、庶民の味方平次親分の心意気を楽しめばそれで充分。
とはいえ「お藤は解く」がこの本だと一番ミステリらしさあり。殺人事件の容疑者多数状態で、それぞれに容疑が深まると、この家に「行儀見習い」に来ている少女お藤が、その容疑をすべて晴らしてしまう。平次親分もお藤の推理にしてやられているのだが...という話。この名探偵少女の趣向がナイス。

でオマケとして胡堂のエッセイ「平次身の上話」を収録。

われわれの範とするのは、やはりボアゴベ、ガボリオ、ポー以後の外国探偵小説であるが、これは、コナン・ドイル以前の古典に属するものほど面白く、精緻巧妙にはなっても、近代のものに私は心惹かれない。それは、トリックに嘘が多く、筋も拵え過ぎて、人物が浮き彫りにされていないからである。

とまあ、ホームズのライバル世代に多かった、科学応用の物理トリックへの反発心から、こういう見解になったようだ。

従ってトリックもまた人間の心の動きの盲点を利用したものや、感情の行き違い、注意のズレと言った、心理的なものになりやすく、そのトリックは、時代や文化によって、動き易いものではない。つまりは、明日は変わって行く器械的なトリックではなくて、千古不易の心理的本質的なトリックになることが多いからである。

ね、マトモなミステリ論をしているよ。捕物帳だからって、バカにしたものではないからね。

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