(2020/06/02 21:44登録)
(ネタバレなしです) ハヤカワ文庫版で600ページを超す1991年発表のトーマス・リンリー警部シリーズ第4作の本格派推理小説ですが過去の3作を読んだ読者は違和感を感じるのではないでしょうか。何とリンリーとセント・ジェイムズの妻デボラが婚約関係なのです。巻末解説によるとデビュー作の「大いなる救い」(1987年)よりも前にセント・ジェイムスを主人公にした作品を2作も書いていて、その未発表作を改訂して出版したのが本書とのことです。そのためか本書はリンリーとセント・ジェイムスのダブル主人公体制で、しかも謎解きへの貢献度はセント・ジェイムスの方が高いというシリーズ異色作です。しかし「大いなる救い」よりも作中時代が昔であることは冒頭で断り書きしてほしかったですね。トーマスの母、弟やセント・ジェイムスの妹などが登場しますが良好な家族関係とは言えない上に殺人事件にまで巻き込まれます。探偵役の家族が容疑者になるミステリーならドロシー・L・セイヤーズの「雲なす証言」(1926年)が先駆的作品ですが、比較にならないほどの重苦しいサスペンスです。リンリーの婚約がどうなるかはシリーズファン読者なら結果は丸わかりですが、どのように収まるのかという興味で読ませます。
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