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ミステリの祭典

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心霊博士ジョン・サイレンスの事件簿
別題「妖怪博士ジョン・サイレンス」

作家 アルジャナン・ブラックウッド
出版日1994年04月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 クリスティ再読
(2020/06/01 09:45登録)
ミステリ以外に「名探偵」がいるジャンル、としてもう一つ「ゴーストハンター物」があるわけだけど、本作のジョン・サイレンスとかカーナッキとか、時代的にも「ホームズのライバル」世代なんだから、ちゃんと名探偵、している。
まあ、サイレンスもカーナッキも作品総数が多くなくて短編集一冊に収まるのがいいのか悪いのか。なので、ジョン・サイレンスも国書刊行会ドラキュラ叢書での訳→角川ホラー文庫も、創元の新訳も収録作は全く同じ。全6編なんだが、どれもこれも、出来がいい。
考えてみると、ゴーストハンターの場合の「犯人」というのは「霊」ということになる。そういう意味じゃ、ミステリの犯人が誰かわからないのに対して、ちょっとハンデがあるわけだ。だから小説としては、ミステリよりも読者をがっかりさせずに納得させるのが難しいことになる。作者のブラックウッドは伝説的な「黄金の暁」教団にいたこともあって、オカルト知識は正統的なんだけど、小説の中ではそういうオカルト業界ジャーゴンを振り回すことなく、「霊現象に直面した人がどうそれを感覚するか?」をしっかり叙述することで、一般性のある「小説」として成立させている。そのうえに、表面的な事件から推測される「真相」よりも、もう一歩捻った真相を用意するとか、「技あり」な短編集である。文章もかなり上手で、安っぽさはまったく、ない。主人公のサイレンス博士も、温厚篤実なタイプで、ケレンなしの直球派。王道ゴーストハンターである。
①「霊魂の侵略者」は、いわゆる「幽霊屋敷」モノで、依頼されたサイレンスが一晩泊まって怪異と直面してそれを祓う。お供は犬と猫で、猫が二股膏薬なふるまいをする(苦笑)。怪異の描写がしっかりしていてナイス。
②「古の妖術」は、ある旅行者がフランスの田舎町に吸い寄せられた。その町は「猫の街」のような...と、朔太郎の散文詩とか「河童の三平」の終盤みたいな「猫町」を連想する話。雰囲気重視の作品で、さすがのサイレンス博士も手の打ちようがない?
③「炎魔」はサイレンス博士とワトソン役の「私」ハバードが、炎魔に取りつかれた家の秘密を暴く話。炎魔の正体とかミステリ的風味がなかなか効いている。中編規模で重厚な読み応えあり。
④「秘密の崇拝」は自分が学んだギナジウムを再訪した商人が、今では廃墟になったギナジウムでの悪魔崇拝の犠牲になりかかるのを、偶然遭遇したサイレンス博士が救出する話。純粋にホラー味で勝負した話で、紹介しやすさではサイレンス物でも一番だろう。
⑤「犬のキャンプ」はバカンスで北欧に、キャンプに出かけた牧師一家を襲う「人狼」の事件を、サイレンス博士が裁いて見せる話。これも中編規模で読み応えあり。
⑥「四次元空間の虜」は短い短編だが、四次元に陥ちこんだ依頼人をサイレンス博士が救おうとする話。SF的な面白味がある。
というわけで、ミステリ読者が違和感なく楽しめるゴーストハンターとしては「カーナッキ」と双璧。毛嫌いせずにどうぞ。

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