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ミステリの祭典

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婆沙羅(ばさら)
室町もの

作家 山田風太郎
出版日1990年05月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点
(2020/05/28 13:56登録)
 元弘二/正慶元(1332)年二月末日、鎌倉倒幕の挙兵に失敗した後醍醐天皇は、幕府軍に笠置山で捕えられ、隠岐島への遠流を間近に控えていた。その宰領役に選ばれた近江半国の守護大名・佐々木道誉は、魔風のごときものを放つ妖天皇に魅せられ、牢中での側妾えらびの秘儀に立ち会うことになる。それはかれに百獣横行の乱世の訪れと、魔星たちの到来とを予感させた! 混沌の時代を綺羅をかざり放埓狼藉をきわめ、したたかに生きぬいた稀代の婆沙羅大名の生涯を描く、絢爛妖美の時代絵巻。
 『室町少年倶楽部』所収の各中編とほぼ並行して連載された、作者晩年の時代長編。雑誌「小説現代」平成二(1990)年一、二月号掲載。忍法帖シリーズ⇔『妖説太閤記』の関係性に習えば、室町ものの帝王本記(平岡正明に拠る)に位置付けられ、長編としては短めながらその密度は高い。
 京極氏は鎌倉~室町時代のみならず、安土桃山から江戸~明治期に至るまで、時の権力に食い込みながらしぶとく生き残ってきた一族だが、これ以前に中興の祖としての佐々木道誉(京極高氏)を取り上げた時代小説は無く、本編はその嚆矢に当たるもの。『妖説~』の藤吉郎同様、妖帝・後醍醐の影響を受けてこの世を食うか食われるかの魔界と喝破し、神将・楠木正成や『徒然草』の兼好法師と戯れながら、〈己のやりたいことをやる〉ためにあらゆるものを踏みつぶしてゆく、主人公・道誉の権謀術数が活写される。ただし晩年の作だけに、ギトギトぶりは薄め。あと省略が効率的なので、『八犬傳』と同じく『太平記』のダイジェスト版としても読める。
 薄味とはいえ将軍兄弟に対する遣り口はかなりエグい(特に尊氏)。秀吉もそうだが道誉も平穏には縁の無い人間なので、世が治まりかけると逆に、食うか食われるかの過酷さは増してくる。
 だがいかに足掻こうとも安定した治世の訪れとともに、彼らは確実に排除されてしまう。『妖説太閤記』よりも物語の肉付けが薄いだけに、ラストではそうした無常観を強く感じた。

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