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ミステリの祭典

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棒がいっぽん

作家 高野文子
出版日不明
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点
(2020/05/28 09:55登録)
 徘徊する齢83歳の老婆を終始愛らしい幼女として描写した戦慄の傑作「田辺のつる」(雑誌「漫金超」創刊・1980年春号掲載)で世を震撼させ、大友克洋『童夢』などとともに当時、漫画界ニューウェーブの旗手と目された天才作家、高野文子の第三短編集。1987年9月から1992年11月まで各少女誌に掲載された4作品と、1993、1994年に「マガジンハウス」社各誌に連載された2作品から成る。時期としては、ゆるゆる漫画『るきさん』(作者はあまり気に入ってないようだが)の連載前後にあたる。
 通底するテーマは「日常」。積み重ねられる生活や回想の彼方の一コマ、あるいははっとするような瞬間を、様々なシチュエーションで描いたもの。とある工業団地で静かに暮らす若夫婦や子供の頃の日々、中にはコロボックルの都会生活なんてのもある。デビュー前後ほど衝撃的な内容ではないが、ゆったりした語り口で絵柄も安定しており、作品としてはこの頃がいちばん好きである。漫画的にもロングショットや俯瞰など様々な技法を駆使しており、タメの後での16~17Pの見開きなどは一気に迫ってきて思わずウルっと来る。
 コマ割りを用いた漫画ならではの巧みさはいずれも出色であるが、本サイト系の押し作品はトリの「奥村さんのお茄子」。ある日突然未来人とも宇宙人ともつかぬ女性がやってきて(もちろん人間でもない)、「二十五年まえの六月六日木曜日のお昼に何めしあがりました?」と唐突に聞いてくる。結末の解釈をめぐりネット上で様々な議論を起こした問題作だが、他の作品同様タッチは終始どこかユーモラスで、ふわふわである(時に怖さも仄見えるが)。
 次点は短編連作「東京コロボックル」。テレビの中に住んだり(豊富な電力を利用したオール電化生活!)人間の肩に乗って通勤したり(会社はロッカーの上にほったらかしてある紙袋の中)、通気ダクトを改造してサバイバル生活を送ったり洗濯機の水槽でカヌーに乗ったりと、短いながらも痒い所を擽る面白さ。佐藤さとるやいぬいとみこの諸作品を参考にしたらしい。これに限らず、「奥村さん~」のうどんを使ったビデオテープや「病気になったトモコさん」の各ガジェットなど、全般に小道具の使い方は上手い。軽めだが円熟の味である。

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