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ミステリの祭典

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蝶の骨

作家 赤江瀑
出版日1981年06月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 クリスティ再読
(2020/05/24 08:37登録)
赤江瀑は、ミステリと完全に地続きなあたりで書いている作家なんだけど、どうも類型にハマらない独自ジャンルという感覚だ。本作だって、エンタメで、殺人はなく(強姦と自殺はある)、超常現象もなく、エロスはテーマだけど格調高い。こんな感じ。この文章に魅力を感じるなら、読んでもいいと思うよ。

陽だまりが、流子の目の前にもある。濃い肉のくさむらが、その光をすっている。
英寧の首が、動いている。
海の匂いが、たつ。
オオルリが、また鳴いている。
スナキビソウがもみしだかれる。
空が、動く。
ときどき、傾く。
丘が、しずむ。
林がひしめく。
樹木が、折れる。
陽が、なだれる。

ヒロインは学生時代に、同級生男子の「花形」の三人組が、体育館倉庫で行きずりの女性を拉致して強姦するのを目撃した。この美形三人組に人知れず恋情を燃やしていたが、相手にされない自身の容姿の醜さに絶望するヒロインは、自身が強姦されたと大学当局にこの三人組を訴えて出る。三人組は大学除籍。ヒロインは卒業後、整形手術を受けて「蝶」に変身していた....デパートの催しで「爪に彫画」するネイリストをする三人組の一人を見つけたヒロインは、身元を隠して男を誘惑する。男はヒロインとのかつての因縁にまったく気が付かないようだ。これをきっかけに、ヒロインはかつての三人組全員を誘惑する「復讐」に酔いしれる。
まあこんな話。だからヒロインの「復讐」の動機のヒネクレ具合とか、無理を重ねたヒロインの復讐の結末とか、そういうあたりの興味で読んでいく話。悪くないけど、カテゴライズ不能なタイプの話で、恋愛小説にしては主人公が屈折しすぎで、官能小説かというと格調が高すぎる。女性視点で女性が読んでも大丈夫で、解説も皆川博子。「暗黒のハーレクイン」と言ったらピッタリか。
赤江瀑は短編の方がずっといい、というか「長編イマイチ」な人なんだけど、本作は長編の3作目。中盤ヒロインが鉄の処女で自殺を図るとか、ヘンなエピソードもあるけど、まあ一応文庫300ページを持たせている。

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