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ミステリの祭典

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櫛の文字 銭形平次ミステリ傑作選
末國善己編

作家 野村胡堂
出版日2019年01月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 クリスティ再読
(2020/05/13 20:09登録)
TVドラマ「銭形平次」の主題歌を聴いててね、ノリの良さにこれ「和風ジャズでは?」と思って調べてみたら、やっぱり同じこと感じる人が多いみたいで、クラブDJでかける人もいるようだ。バスクラリネットの入り方がやたらとかっこいい。
というわけで、原作も久々に読みたくなった。創元推理文庫なんてところから「銭形平次ミステリ傑作選」が出てるじゃん(苦笑)。というわけでゲットして、微妙なミスマッチ感を感じながら読了。考えてみると、イマドキ青空文庫を漁れば、銭形平次ならほぼ9割の作品は読めるんだ。じゃあわざわざ書籍で買うメリットは?というと、400篇近い銭形平次の中から、手っ取り早く「ミステリらしさの強い作品」をセレクトして読める、ということになる。そういう値段だと評者は思うことにした。
この短編集は末國善己氏によるセレクション17編。ミステリとは言っても、捕物帳は半七の昔からベースはホームズだから、フェアプレーは無視。それでもホームズ譚くらいのつもりで読むなら、ミステリ、じゃん?というくらいの気持ちで読める。江戸風俗については半七と比較しちゃいけない。平次の江戸風俗は芝居の書割だが、半七は「逝きし世」のリアリティ。そのかわり、いわゆる「銭形平次四原則」、1.侍の肩を持たない。むしろ横暴徹底的にやっつける。 2.町人や農民の味方になる。 3.罰することだけが犯罪の解決ではあるまいとの哲学を貫く。 4.明るい健康な作品にする、が徹底しているので、安心して読めることでは保証付き。「時代劇」のユートピア空間に遊ぶ心持ち。
そうはいっても、不可能興味がある「雪の夜」(半七の「春の雪解」にインスパイア?)とか、暗号解読があって、しかもそれが仕掛けな「櫛の文字」、トリックのある「槍の折れ」「風呂場の秘密」「猫の首輪」「生き葬い」、赤毛連盟を思わせる「人肌地蔵」、などなど「ミステリ傑作選」というだけあって、緩めだがミステリに違いないね、という作品が目白押し。親分が女性に包囲されて攻め立てられる「平次女難」みたいな笑える作品もあるし、平次と八五郎の軽妙な掛け合いはお約束。だからパズラー17連発というわけじゃなくて、軽めでサクサク読める、軽ミステリ17連発という印象の本である。
まあ、平次というと伝奇スリラー的な作品(「金色の処女」とか「七人の花嫁」とか)も多いからね。このセレクションはそういうのは入っていない。さすがに創元、ではあるが、難を言うと「ミステリ傑作選」のせいもあってか、商家を舞台にした殺人に平次が呼ばれて事件を解決、というパターンが続くこと。胡堂の「ミステリらしさ」の狙いと、セレクションの偏りからそんな印象がある。もう少しバラけた方が本としてはいいと思うが。

(時代劇テーマソング3大名曲は「銭形平次」「大岡越前」「大江戸捜査網」だと思う)

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