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ミステリの祭典

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都市の仮面
半村良短編集―5

作家 半村良
出版日1979年08月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点
(2020/05/08 08:03登録)
 昭和47(1972)年4月から昭和49(1974)年1月にかけて、雑誌「週刊小説」を中心にして、「小説CLUB」「小説新潮」ほか各誌に執筆した作品を集めた中短編集。人情短編「雨やどり」にて第72回直木賞を受賞する直前の作品集で、収録作のいずれも主人公はサラリーマン。
 表題中編のタイトルが暗示するように〈大都市の裏側で密かに進行する企み〉〈社会の影に蠢く秘密組織〉が主要テーマ。『石の血脈』に始まる著者得意の題材を駆使したものだが、十分な肉付けが可能な長編ならともかく、本集ではあまり生きていない。発表当時は時代の熱量相応の重みがあったと思われるが、残念ながら古びてしまっている。ホームレスに関する発想がやや面白いくらいだろうか。怪作「ボール箱」や「赤い斜線」収録の『幻視街』、名作「簞笥」収録の『炎の陰画』などの短編集に比べるとやはり落ちる。むしろ若干テーマから外れぎみの短編の方が、今では読める。
 個人的ベストはトリを務める「おまえたちの終末」。巧みな暗示から皮肉な結末への誘導が冴えている。学生運動やヒッピー等の社会風俗を背景にしているが、結局はいつの時代も変わらぬ〈近頃の若い者は・・・〉という感慨に集約されていく、ある種の普遍性を持った作品。大ボラ短編「生命取立人」のまことしやかなソレっぽさも買えるが、大胆な発想がチンケな陰謀劇に収斂していくのが惜しい。短編では枚数的に仕方無いのかもしれないが。
 以上2編が本書の収穫。次点は「村人」。方言の怪しさとわざと真相を暈す手法は、ひょっとしたら「能登怪異譚」の原型かも。

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