戦争の嵐 |
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作家 | ハーマン・ウォーク |
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出版日 | 1974年01月 |
平均点 | 7.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 7点 | tider-tiger | |
(2020/05/18 09:00登録) 本日はハーマン・ウォーク氏の一周忌です。2019年5月17日にカリフォルニアで逝去されたようです。時差の関係で日本時間だと本日が命日かなと。享年なんと103歳。 じつはちょっと怖いことに気付いてしまったのですが、作品内容とは関係のないことなので最後に紹介します。 1971年アメリカ。ヒトラー活性化から日本の真珠湾攻撃までをアメリカの軍人とその家族を軸に綴った大作です。ベルリン、ポーランド、モスクワ、真珠湾などがまるでその場に居合わせたかのような具体的な描写で綴られております。ケレン味はあまりありませんが、真面目に書かれた力作であり非常に読ませます。 軸となるのはアメリカの一家族ですが……ちょっとこれは。 ヴィクター・ヘンリー大佐(夫)ベルリン駐在武官。 ローダ(妻)社交上手で美しい。原爆製造の関係者と……。 ウォレン(長男)空軍に所属。パールハーバーに配属される。妻は上院議員の娘。 バイロン(次男)海軍に所属。潜水艦乗務員となる。妻はユダヤ人。 マデリン(長女)報道番組の制作に関わる。 なんと都合の良い……こういうお膳立てを調えてきたとなると、波乱万丈、お涙頂戴でグイグイくるのかと思いきや、そういう話ではありません。あざとい設定満載のわりに静かな筋運び。どうにも不可解。ヴィクターを使ってエスピオナージュ的な趣向を全面に押し出してみたり、マデリンのサクセスストーリーを加味したり、バイロンのキャラを活かして大冒険をさせてみたりと派手に展開させてもよかったのではないかと。 ですが、この人物設定であれば当然起こるであろうことが起こり、不安な情勢下に生きる家族を通じて淡々と歴史が描かれていきます。エンタメとして巧妙とはいえませんが、とても実直な筆致であります。 つまり、あざとさ満載の人物設定は物語を盛り上げるためというよりも、歴史、戦争開始の経過をなぞるために必要だったといった風なのです。 本作は軍事についても詳しく記述されています。 ドイツの軍人が書いた架空の軍事評論が紹介され、ヘンリー大佐がそれを訳しているという設定でそこに大佐が注釈を加えます。軍事的な面についてアメリカ側の見方とドイツ側の見方を紹介するといった体裁になっています。 ヘンリー大佐はヒトラーやスターリンとも会って話をします。人となりも描かれています。ムッソリーニはちょこっと登場。日本人は山本五十六と松岡洋右が数行言及される程度です。 歴史観の違いや当時は知られていなかった事実などありますが、調べたことをニュートラルに書こうという作者の姿勢は窺えました。 ※日本が主敵となる続編『War and Remembrance』 (1978年)は邦訳されておりません。 邦題は『戦争の嵐』原題は『The Winds of War』そう、確かにこの物語は嵐よりも風の方がイメージに合っているような気がするのです。静かな展開の中、戦争により風が起こり、人々を吹き飛ばしてしまう。 戦争は人々の運命を狂わせる。 章立てが不可解でした。 『第一部ナタリー』『第二部パメラ』『第三部舞い上がる風』となっています。 第三部はわかります。第一部と第二部はどういうことなのか。ナタリーはバイロンの妻となるユダヤ人女性です。パメラはヘンリー大佐と不倫関係になりかけるイギリス女性。彼女らが前面に出されていること、これは本作が冒険小説でも歴史小説でもなく、まずは人間ドラマなのだということの証左のようにも思えました。 モスクワからパールハーバーに向かうことになったヘンリー大佐が西回りで向かうか東回りで向かうかを思案し、どちらでも距離はあまり変わらないことを知る場面があります。 地球の真裏でアメリカと日本が戦争をはじめた事実にスターリンは高笑いをしたことでせう。 最後に 人並さんがウォークの『裏切りの空』の書評をupされたのが、2019/05/16/03:01 当時は「おっハーマン・ウォークの初書評きたー」なんて思っていましたが、今年に入って逝去していることを知りました。 2019年5月17日にカリフォルニアで逝去 ちょっと怖い。ことはさんの眉村卓といい、人並さんといい、このサイトには霊感の強い方が揃っているのでしょうか。 |