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ミステリの祭典

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象られた力

作家 飛浩隆
出版日2004年09月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点
(2020/04/07 06:32登録)
 寡作でつとに知られる地方在住SF作家・飛浩隆が、一九八〇年代から一九九〇年代はじめにかけて発表した作品から選りすぐった、著者初の中短編集。個々の作品はすべて雑誌〈SFマガジン〉に掲載されたものだが、各編とも大きく作者の手が入っており、表題作に至ってはもはや別物と言ってもいい仕上がり。
 人物も書けるがその根底には硬質というか鉱物的なものが横たわっており、味覚・触覚・空気感などを総動員しながらクライマックスに向けてストーリーを持っていくのだが、生々しさはあまり感じない。煌びやかな形容詞を駆使したそのイメージを譬えるなら、絢爛たる崩壊。表題作に代表されるように、その徹底ぶりは容赦無い。数年ぶりの大作『零號琴』は冒頭部に手を付けたままだが、〈廃園の天使〉シリーズや各収録作を見る限り、精緻な破壊のイメージに憑かれているようにも思われる。同様のモチーフを扱う作家は幾人もいるが、この人の場合読後に際立って無機的な印象が立ち上がる。
 日本SF界トップクラスの才能の持ち主ではあるのだが、そういう訳で本書も好みではなかった。重量感のある作品ばかりではあったが。
 そんな中ある種救いだったのは、ユーモラスな中に一筋縄ではいかないものを秘めた『呪界のほとり』。これとて一種形而上学的な底意地の悪さがあり、彼方には廃墟と化した世界が仄見える。でもそれを笑い飛ばすほどキャラクターに力強さがあって、集中で一番気に入った。当初はシリーズ化も目論んでいたそうだが、やはり作者本来の資質からは外れるのだろう。
 伊藤計劃『虐殺器官』『ハーモニー』の先駆ともいえる作品を収めた中編集。2005年には表題中編で、また全体として、それぞれ第36回星雲賞及び第26回日本SF大賞を受賞。

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