虹が消える 別題「残酷な報酬」 |
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作家 | 多岐川恭 |
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出版日 | 1963年01月 |
平均点 | 6.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 6点 | 雪 | |
(2020/04/01 13:46登録) 東京タイド新聞社会部の記者・郡(こおり)徹也は、副部長である沼田正三の妻・鶴代と関係を持ちつつ、一方ではバー「プリムラ」の江沢夏代を脅しアパートに入り浸るという自堕落な生活を続けていた。沼田が家を空けたある日、鶴代に呼ばれた郡は北九州の炭鉱経営者の娘・川端比呂子に紹介される。美人だが透明な感じで薄く、すぐ破れそうな、それでいてどこか暗いものを秘めた比呂子の姿は、彼に強い印象を残した。鶴代はそんな比呂子の存在に嫉妬する。 その二日後。夜勤をさぼった郡が鶴代に連れられ夜の街を飲み歩いている間に、社では非番の同僚記者・世古英俊がスクープを掴んでいた。 現職国会議員の殺害事件――保守党代議士・塩尻亀彦が、短刀をワシづかみにして押しかけてきた同郷の友人・川端作太郎に港区の料亭「衣笠」で刺殺されたのだ。塩尻は心臓を一突きにされて殺され、凶器の短刀は血が付着したまま床柱の前に転がっていた。自分は何者かに失神させられたのだと作太郎は主張したが、状況証拠から犯人と断定され、そのまま警察に拘束された。彼は比呂子の実の父親だった。 出社停止処分を受けた郡だったが、地方銀行社長と東京タイド会長を兼ねる大物・遠藤敬三を父に持つ鶴代からの情報で、殊勲者の世古が静岡支局に左遷されたことを知る。 手柄を立てたはずの世古がなぜ? 現場には区会議員で、ヤクザの親分の仙崎藤男もいた。作太郎所有の新桂川鉱はなかなか有望な炭鉱で、彼から経営権を奪い取ろうという動きもあるらしい。作太郎は罠に嵌められたのか? だが産業エネルギーが徐々に石油に切り替わりつつある今、炭鉱に将来性は無く、殺人を犯してまで欲しがる者がいるとは思えないのだが―― 新聞記者魂を刺激された郡は、作太郎の秘書・式準司と協力し事件の再調査を開始するが、まもなく彼の元には、世古が日本平へ行く中途にある松林の中で自殺したとの知らせが齎される・・・ 第四回江戸川乱歩賞受賞作『濡れた心』(1958)の次作で、多岐川恭の第三長編。昭和三十四(1959)年発表。処女長編『氷柱』と同じく河出書房から刊行されました。 本書は『氷柱』に引き続き、多岐川得意の斜に構えた主人公が活躍するストーリー。この年は長編こそこれ一本ですが、短篇の発表は『落ちる』での直木賞受賞もあって、前年度の5篇→17篇と飛躍的に伸びており、ここから約20年に渡りほぼ同じペースで各誌に掲載を続けていきます。 主人公・郡同様に影を持つ男・式もよく描けており、いつもながら人物描写は達者なもの。新桂川鉱乗っ取りを目論む石炭業界の元老・島村毅も単純な悪役ではなく、随所で懐の深さを見せます。炭鉱争議に絡むアクションなど途中までは社会派+ハードボイルド調ですが、最後まで読むと動機探しの本格物。押し隠した感情の重みに耐えながら、あえて腐れ縁に戻っていく屈折したラストは苦い味わいを持っています。 タイトルもおそらくここから来ているのでしょう。なかなか読ませる作品で意外性もあり6.5点。とはいえ佳作には届きません。 |