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ミステリの祭典

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逢えるかも知れない

作家 ジェームス三木
出版日1985年08月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 人並由真
(2020/03/19 05:29登録)
(ネタバレなし)
 丹沢山中で、麻袋につめられた全裸の青年が、生きたまま発見される。彼は頭部に大怪我を負い、記憶を失っていた。発見された現場にちなんで「丹沢一郎」の仮の名をもらった彼は、事件を捜査する47歳の温情派の平刑事・江田、そして江田の娘で高校を出たばかりの信用金庫職員・ミズエの世話になるが、そんな彼の命を何者かが狙う。ミズエの発案で、失った記憶を探るきっかけにと全国の名所絵葉書を見まくった一郎は、なにかひっかかりを覚えた情景のある九州にむかう。だが途中で路銀を使い果たした一郎は、たまたまであった篤志家の青年実業家・若林英之介の世話になるが……。

 1980年代半ばに、脚本家である著者のメインシナリオで放映された連続テレビドラマの小説版。原作とかノベライズとかいうより、メディアミックスの連動企画として当時刊行された小説だろう。
 テレビは本放送時、母が好きで観ていてなんとなく付き合っていたが、その母が途中のある展開に立腹。視聴を中断したので自分もそのまま観なくなった(今にして思えば、あれこれ感じるところもある当時の視聴状況だが)。

 そんな自分だが、先日ブックオフでこの小説(集英社文庫版)にたまたま再会。ちょっと懐かしくなって購入し、あっと言う間に読み終えた。ミステリなのかと問われるのなら、一応裏表紙には「長編サスペンス・ロマン」とあるし、内容もまあ、和製『黒いカーテン』ではある。ほかにも思いつく記憶喪失ネタの類似作はあれこれと、いくつか。

 とはいえ犯罪や事件性は十分の物語だが、なんらかの謎を提示して読者の興味をわずかなりとも刺激するような作りではなく、一郎の本名もすでにプロローグから半ば明かされ、犯罪者の立場も隠された? 動機もいきなり語られる実にゆるい内容。ハイテンポで話が転がっていくのは良いが、謳い文句ほどサスペンスもない。もともとそんなに期待値の高い作品でもなかったが、うーん、こんなものかな、という感じではある(苦笑)。
 そもそも事件の一端は主人公の無思慮な行動が遠因の一端となっている気もするが、まあ、その辺はギリギり怒らないで許せるかなあ……というところ。

 主要キャラの人間的な偏差値が総じて高く、このへんの作劇も見方によっては御都合主義ではあるんだけど、一方でメロドラマというかオトナ向けのラノベとしてはそういうまとめかたが品の良い面もあるので、一概に悪いとはいえない。
 結局、ひとことで言えば他愛ない、ということなんだろうけど、通常のミステリとはリーグの違うハナマル作品としては、これでいいかもね。
 ということで評点は0.5点ほどオマケして。

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