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ミステリの祭典

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崩壊の夜

作家 笹沢左保
出版日1962年01月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2020/03/16 13:28登録)
(ネタバレなし)
 中堅広告会社「関東広告」で調査部に勤める31歳の倍償郁夫は、閑職に飽きて社内の有力な面々を引き抜き、大手のお得意先・大同電機との縁を奪いながら、新興会社の旗揚げを企む。倍償は24歳の同僚・中曾根冴子と不倫関係にあり、彼女から起業のための金策を求めるが、さらに共働きの妻・紅子の預金を借りる必要があった。倍償は、自分の21歳の美人の妹・弘代を大同電機の宣伝課長・鶴田錬次郎に抱かせるなどの根回しと前後して、夫の独立に反対な紅子の、予想外に高額の預金をものにすることを考えるが、その紅子が、ある日、何者かに殺害された。

 1962年4~9月にかけて「週刊アサヒ芸能」に連載された、笹沢の比較的初期の作品。
 あらすじ内に名前を出していない登場人物をふくめて人間関係が明快に配置された長編で、主人公・倍償の独立にかける野心のほどが、紅子殺しのフーダニット、さらには彼女自身をとりまくある謎とあわせて物語の興味となる。
 三時間で読めてしまう小品ながら、良い意味で二時間ドラマ的なまとまりを持った作品。ストーリーの顛末も大筋の流れは読める一方、そこに持って行くまでの筋運びはちょっとした意外性もあり、その意味でも楽しめた。

 読後に少しだけwebで感想を探ると、本業がまともなサラリーマンの読者らしい方など、主人公に共感と憧れ、そして物語全体にある種の恐怖を覚えた人もいるようで、さもありなんであった。
 ちなみに後半のストーリーでは、主要人物が物語に沿った作者の駒的な動きになる面もあるが、ドラマとしての使い方、その上での書き手の言いたいことがくっきりしているので、特に不満はない。

 当時の広告業界ものとしても、デティルの叙述について相応のリサーチはしているようであるし(新聞の広告面への契約の仕方など)、笹沢作品のベストクラスではないにせよ、それなりに面白いといえる佳作~秀作。
(ただしミステリ要素とサラリーマン小説の部分の総和としての評価で。)

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