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ミステリの祭典

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暁のデッドライン
ジャーナリスト・川崎隆

作家 中田耕治
出版日1964年01月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2020/03/15 04:20登録)
(ネタバレなし)
「おれ」こと、現在は週刊誌編集部の資料係を務める川崎隆は、女優の恋人・和泉燎子と交際中。燎子は夫と数年前に別れた三十代の美女で、高校三年生の娘のまゆみがいたが、そのまゆみを誘拐したので三百万の身代金を用意しろと電話が入る。犯人は当然のごとく警察への連絡を禁じたが、身代金が安すぎること、また燎子に聞いた情報から状況に不審を覚えた川崎は、まゆみが本当に誘拐されたのか確認しようと独自の調査を開始。まゆみの友人の女子高校生で資産家の娘・片桐藍子に接触する。その藍子からの情報をもとにさらに関係者を訪ねて回る川崎だが、彼の前には惨殺された死体が転がっていた。

 スピレインやマッギヴァーン、ロス・マク、さらには『死の接吻』や『虎よ、虎よ!』まで多数の海外ミステリ、SFほかの翻訳を担当し、一方で海外史研究家や舞台演出家の顔も持つ著者・中田耕治のオリジナル国産ミステリ。

 例によって長年自宅の一角に眠っていた蔵書を思い立って読んでみるまでは、表紙折り返し・袖口のあらすじ紹介とこの題名から、タイムサスペンスの誘拐もの&ノンシリーズの単発編だろうと思っていたが、実際にはジャーナリストの川崎隆を主人公にした長編シリーズものの第二弾であった(シリーズ第一弾は1961年に刊行の『危険な女』らしい)。内容もサスペンス編というよりは、一人称のハードボイルド作品という方がふさわしい。
 物語も予想外の方向に転がっていき、その辺はさすがに詳しくはいえないが、作品の仕上がりは、よく考えられた部分と雑な叙述が一冊のなかに同居。一流半の国産ハードボイルドミステリにあと一歩という印象なのだが、思っていたよりずっと、骨っぽさは感じた。
 ただし女性連中はそれなりにキャラクターが描き込まれている反面、主人公の川崎以外の男キャラ連中はまるで精細がない。この辺は書きたくなかったものには熱量を傾けなかった作者の正直さがモロに出た、そんな雰囲気である。

 事件の黒幕も大筋の流れでわかってしまうのはまあ仕方がないが、手がかりというか伏線に関して妙な気の配り方をしているのは感じられ、その辺はちょっと面白い。ただし刊行当時の日常文化ならもっとわかりやすかったかも知れないギミックが、21世紀の今となってはいまひとつ理解しにくくなってしまっているきらいはある。

 あと終盤でメインヒロインの燎子(高校生の娘がいるのだから、いくら女優で若く見える美人といっても三十代後半のはず)と別の23歳の女優が、かつで同期のニューフェイスだったという記述があるが、これはどう見てもヘンでしょう。その昔、二十代半ばの遅咲きニューフェイスと新人の子役の少女が同期だったとでもいうのか? 
 ほかにも細部で、あ~雑だなと思える箇所がいくつか目に付いた一方、うん、なかなか……と思わせる部分も散在し、その辺のカオスぶりは確かに本書の味ではある。文章もところどころ、ポケミスや創元でおなじみの中田節が目について、くすぐったい気分で快い。

 リアルの皮をかぶったファンタジー的な和製ハードボイルドだし(物語は川崎視点で、事件開幕から収束まで一日半もかかっていない)、国産ハードボイルドの傑作を十本なり二十本なり選んだとして、その中に入るような一冊でも決してないけれど、これはこれでまあ悪くはないね。

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