ナッシュヴィルの殺し屋 |
---|
作家 | ジェイムズ・パタースン |
---|---|
出版日 | 1980年12月 |
平均点 | 5.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 5点 | 人並由真 | |
(2020/03/11 23:55登録) (ネタバレなし) 1974年。「わたし」こと、31歳の田舎学者で地方新聞「ナッシュヴィル・シチズン・リポーター」の記者でもあるオックス・ジョーンズは、先日の黒人の市長ジミー・リー・ホーンの射殺事件に際して、29歳の殺し屋トマス・ジョン・ベリーマン周辺の情報を追う。ベリーマンの相棒で今は精神病院に収監されるベン・トイを初めとして、関係者を訪ねて回るジョーンズだが……。 1976年のアメリカ作品で、1977年度のMWA新人賞受賞作品。 作者ジェイムズ・パタースンは共著を含めてすでに著作が百冊以上に及び、日本でも20冊以上の邦訳が出ている。評者も、作者のシリーズものの主人公で看板キャラらしい、心理学者兼政府のコンサルタント、アレックス・クロスの名前くらいは聞いたことがあるが、とにかくシリーズものもノンシリーズものも一冊も読んだことはなかった(と思う)。とはいえWikipediaを見ると世界的にも大人気らしく、相当、成功した作家らしいが。 しかしながら本サイトにはまだ登録もないのが気になって、しばらく前にこの本を取り寄せたものの、例によってなんとなく放置。それから半年ほど経った昨日、ついに思い立って読んでみた。ちなみにもちろん本作は、新人賞受賞ということで明らかなように、そんな現在の大家の処女長編である。 物語の構造は、キーパーソンというかタイトルロールの人物「ナッシュヴィルの殺し屋」ことベリーマンが現在どのような状況なのか未詳なまま、主人公のジョーンズがあちこちを飛び回り、その一人称の叙述に混ざるように、ある程度自由なカメラワークの三人称の描写が挟み込まれる。 大昔に観たボガートの晩年の映画『裸足の伯爵夫人』がこんな感じだったような……と思いながら読み進めていくが、お話そのものはそんなに起伏はないものの、小説的な語り口は悪くない、というか脇役の配置、ひとつひとつの場面の見せ方など全体的に器用なので、それなりに読ませる。どちらかというと、犯罪実話を素材にしたドキュメントノヴェルを読んでいるような感じもあるが、たぶんその辺は正に作者が狙った方向だったのではないかという印象。 全体の紙幅がそんなに厚くないことも含めて、どういう形で物語がまとまっていくのかという興味でよくも悪くも淡々と読み進め、そうしたら最後まで淡々と終ってしまった感触であった。ラストの仕掛け(?)は……うーん。 大半のエンターテインメントというのは、多かれ少なかれどっか読み手を刺激してハジける部分があると思うのだが、この作品はそういう要素がかなり希薄な感じ。かといってすごく地味で色味も薄いつまらない一冊かというと、決してそんなこともなく、それなりの腹ごたえもあった気もする。 ちょっと狐につままれたような感触もあるが、まあ、たまにはこういう作品もあるでしょう、最後はそんな思いを抱かせた、そういったミステリ。 |