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ミステリの祭典

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楠の実が熟すまで

作家 諸田玲子
出版日2009年07月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 小原庄助
(2020/02/20 11:08登録)
幕府隠密になることを命じられた女性を主人公にした時代ミステリ。禁裏の出費に疑問をもった幕府は、山根良旺に不正の証拠を見つけることを命じる。ところが頼りの密偵が刺客に殺され調査は中断。山村は腹心の中井清太夫の姪・利津を隠密として禁裏の経理を担当する高屋康昆の家へ送ることを決める。女隠密の活躍と聞くと、いかにもミステリ的な設定に思えるかもしれないが、山村が清太夫の姪を隠密に抜擢したのは史実のようである。
著者は実話に基づいたスリリングなスパイ小説に、楠の実が熟す半年の間に不正の証拠をつかまなければならないタイムリミット、限られた容疑者の中から刺客を探す「犯人当て」など独自の要素も加えているので最後まで先が読めない。
文武に優れた利津は、自分の使命に誇りを持っていたが、不正役人とは思えない康昆の誠実さに魅かれていく。任務と情の板挟みになった利津が苦悩する後半は恋愛小説としても秀逸なので、ハードな展開が苦手でも十分満足できるはずだ。
利津の任務は、現代でいえば会計検査院のようなもの。税金の無駄遣いに納税者の関心が高まっているだけに、利津が禁裏という絶対のタブーに切り込むところは、過去を舞台にしているとは思えない迫力があり、その活躍は痛快に思える。

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