ブラックバード |
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作家 | マイケル・フィーゲル |
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出版日 | 2019年08月 |
平均点 | 7.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 7点 | 人並由真 | |
(2020/02/19 23:34登録) (ネタバレなし) 2008年9月8日のワシントン。「おれ」こと国内でテロ活動を請け負う殺し屋エディソン・ノースは、重度の卵アレルギーだったため、ファーストフード店でマヨネーズ抜きのメニューを注文する。だが店員は傲慢に対応し、憤怒したエディソンは店内で銃を乱射した。その時、店内にいた「わたし」こと8歳の少女クリスチャンもまた、惨状の直前に店員の横柄な対応を受けており、それを契機に彼女に関心を抱いたエディソンは、気まぐれのように少女を連れ出してしまう。その直後、クリスチャンに逃げる機会を与えたエディソンだが、なぜか彼女は彼のもとを去ろうとはしない。奇妙な縁のなか、親子のように旅を続ける2人。やがてクリスチャン=Xチャンはエディソンの訓育を受け、暗殺者として成長し始めるが、2人の前には激動の日々が待っていた。 2017年のアメリカ作品。 『ニキータ』だの『グロリア』だの『レオン』だのあれやこれやの映画の題名が連想で浮かぶ、子供+ノワールもの(ちなみに正直に言うと、いま名前をあげた映画はどれもマトモに観てない)。 エディソンは1962年生まれ、クリスチャンは2000年生まれと、二世代近くも年の違う主人公コンビだが、年輩の方が生きる上で次第に年若き相棒の存在に依存していく流れは王道。この辺は『家なき子』のレミとビタリスだ。 さらに2人にさる事情から追撃の手がかかるが、その事態の全容は終盤まで茫洋としており、読者にも明かされない。500ページ近くの厚めの長編ながら、名前のある登場人物は10人いるかいないかで、結局のところ主人公2人が突き落とされた迷宮感もこの叙述のおかげで際立っている(正確には、これまでずっと裏世界の依頼を受けてきたエディソンは相応に詳しいことを知っているはずだが、彼は考えあって? Xチャンにいっぺんにすべてを明かそうとはしない)。 クリスチャンの人生を巻き込んでいくエディソンは、通例の意味での倫理や道徳観など希薄(請け負った仕事の上なら罪もない市民も必要に応じて殺す)。それでも少女の養育者としての立ち位置に独自のコードを設け、一定のストイシズムを感じさせる(いささか歪んだ形なのは間違いないが)中年主人公エディソンのキャラクターにいつしか読み手は魅せられていく。このあたりのバランス取りはかなりうまい。 前述のように厚めの一冊だが、エディソン視点の「おれ」パートと、Xチャン(クリスチャン)視点の「わたし」パートを交錯させながら滑らかに物語が進み、気がついたら半日もかからずに読了していた。 先に書いたような迷宮感を経た、最後の対峙シーンの雰囲気はトレヴェニアンの『シブミ』の終盤のあの雰囲気と緊張感に近いかも。 随所に仕込まれた21世紀アメリカ&世界規模の文明観や、独特の文芸っぽい香気も含めて、予期した以上の満足感のある作品。 |