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ミステリの祭典

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緋い川

作家 大村友貴美
出版日2019年07月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2020/02/10 17:44登録)
(ネタバレなし)
 日清戦争終結から5年目の明治33年。多様な金属を採掘する鉱山があることで知られる、宮城県の触別村(ふれべつむら)。そこに流れる猩紅川(しょうこうがわ)は酸化鉄の影響で緋色の水流を見せていた。だがその川にある日、双頭の犬、猫の足をした猿など奇怪な生き物の死体が流れてくる。さらに流れてきたのは人間のバラバラ死体。死人すら幽霊となって徘徊するというこの村だが、そこに東京から26歳の青年医師・衛藤真道(えとうまみち)が赴任。真道は恩師である帝大医科大学の教授・岡林太郎の提言を受けて、この鉱山病院の医師であるドイツ帰りの英才・殿村秀(とのむらひいで)の応援のためやってきた。だが真道の着任から間もなくして、怪異な失踪、そして殺人事件が勃発する。

 作者の本はこれまで何回か読もうと思っていたが、結局は本書が初読みになった。
 正直、謎解きミステリとしては大したことはないが、19世紀最後の年(明治33年=1900年)という文明の転換期を意識させる時代設定に見合ったストーリーはそれなりに読ませる。
 日新戦争で国内外に戦死者や障害者が続出した悲劇、そして富国策を講じるなかで発生する鉱山での職業病などを背景に、実践的な医学のありように目を向けていく主題そのものは真摯でよい。
 ただおそろしく筆が滑らかでリーダビリティが高い文章なので、読みやすい一方、重いテーマの割にどこか格調が得られない印象もある。例えるならNHKが近代史をテーマにした大河ドラマでヒットした同じ年に、その反響に便乗したどこかの民放がお金をかけて2時間半ドラマのエピゴーネン企画を実現したとき、こんなのができるんじゃないかという感じだ。

 それぞれの登場人物の描き分けも、物語が進むにつれて見えてくる反転の部分までふくめてなかなかくっきりしている。だけどその一方で、ドラマ上の役割に応じた類型的な印象を抱かせてしまう面もある。
 全体的に決してきらいではない、好ましいんだけど、2010年代終盤の新作としては良くも悪くも作りも狙いも、素朴すぎるよなあ、という感じ。
 3時間で読み終えたけれど、その時間分に見合った読み応えではあった。
 評点は実質5.5点くらいだけど、ちょっとオマケ。

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