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ミステリの祭典

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悪戯
87分署

作家 エド・マクベイン
出版日1996年01月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点
(2020/02/25 06:32登録)
 春まだ浅い三月の終わり、アイソラでは大小さまざまな事件が続発し、87分署の刑事たちは目も回るほど忙しい。なかでも彼らが頭を抱えたのは、壁にスプレー缶で落書きをするストリート・アーティストばかりを狙った連続殺人。無造作に鉛弾を撃ち込んだ後、死体にペンキを吹きかけるという異常な手口だった。
 担当刑事のクリングとスティーヴ・キャレラが話し込んでいたちょうどその時、デスクの電話が鳴り響く。
「どんなご用でしょう?」「もう少し大きな声でいってもらえんかな。わたしはちょっと耳が悪いので」
 あの男、デフ・マンがまたこの街に帰ってきたのだ。刑事たちは山積する事件の捜査に追われながらも、彼の五度目の挑戦を阻止すべく奔走するが・・・
 1993年発表のシリーズ第46作で、エイプリルフールの時期に起きた諸々の事件が題材。ホープ弁護士もの第9作『三匹のねずみ』の翌年の作品で、かのシリーズが『メアリー、メアリー』で急降下する前の時期に執筆されたもの。デフ・マンは一応メインで登場しますが、これまでのようにピンではなくモジュラーの一件という扱い。パーカーとクリング担当の落書き屋射殺事件に加え、マイヤーとホース組は痴呆老人置き去り事件を捜査。物語はこの三件を軸にして進むものの、全体に纏まりを欠いた散漫な出来映え。SF小説を題材に天才犯罪者が仕掛けるヒントもいまいちピンときません。狙いはまあまあなんですけどね。油断して共犯の女にいいようにやられるとか、今回も株は下がり気味。
 ストーリーに平行してラップ・グループ《スピット・シャイン》のリーダー、黒人のシルヴァーと、白人ダンサー、クロー・チャダートンの恋愛模様が描かれますが、クローは第33作『カリプソ』の冒頭で射殺された黒人歌手の元妻。このカップルとエンディングでのクリングの新たな恋を、デフ・マンの煽動計画というアメリカの暗部に対置して釣り合いを取っています。キャレラの妻テディのエピソードが示すように、裏テーマは差別と暴力ですね。
 犯行予告に使われるボリビアのSF作家、アルトゥロ・リヴェラの小説『恐れと怒り』もなんだか胡散臭い。十中八九マクベイン本人作だと思われます。別名義で何冊かSF書いてますしね。

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