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ミステリの祭典

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われらがボス
87分署

作家 エド・マクベイン
出版日1976年05月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 tider-tiger
(2020/02/02 13:39登録)
~パトロール警官は剥がされたドブ板を不審に感じた。溝の中を照らすと赤ん坊を含む六体もの遺体が遺棄されていた。被害者たちは人種も性別もマチマチで、全員身元がわからない。これは厄介な事件になりそうだ。
そして、一週間が経った。87分署の刑事部屋にはギャング組織であるヤンキー反乱隊の会長ランドール・M・ネズビットがいた。彼は六体の遺体について詳細を知っていた。訊かれてもいないことまでペラペラペラペラ喋りまくった。~

1973年アメリカ。87分署シリーズ異色作の一つ。原題は『Hail to the Chief』
あらすじのとおり、いきなり六つの死体が転がり、早くも21頁でヤンキー反乱隊会長の口から犯人の名が明かされ、命令したのは「オレ」だとの供述まで飛び出してしまう。倒叙形式といえなくもないが、そこは大して重要ではない。遺体発見からの一週間にどんなことが起きたのか、刑事たちの捜査と会長の供述が交互に描かれていく。小さな謎が解明されてゆき、事件の全体像が浮かび上がり、会長の独善性、異常性が見えてくる。
ギャングについて深く掘り下げることはしないが、要所要所を押さえてある程度のリアリティを保ち、なかなか楽しい作品に仕上がっていると思う。
雪さんも指摘されているが、『ショットガン』『はめ絵』『昼と夜』『死んだ耳の男』とこの時期のマクベインはどうも冴えない。ここで自分をみつめなおしたのかなんなのか大胆な構成の異色作を送り出してきた。
さまざまな遊び、実験が散りばめられ、マクベインの筆致は活き活きとしており、名作とまではいえないが好きな作品である。
本作で心機一転、続く『糧』もなかなかいい作品だったように記憶している。

大筋はギャング組織の三つ巴の抗争であるが、見方によってはいわゆる独裁者(スターリン、毛沢東、ヒトラーなどに代表される大量殺戮に至る病)について書かれた作品だともいえそう。原題の『Hail』はいわゆる『Heil Hitler』を想起させるし、会長が盗聴器を仕掛けさせた敵組織のアジトは『ゲイトサイト・アヴェニュー』にあったりする。これはもちろん本作執筆の時期に起こったウォ-ターゲイト事件にかけているのでせう。

ジャンルは迷いましたが、クライム/倒叙 としておきます。

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