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ミステリの祭典

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ラスプーチンが来た
明治もの/別題「明治化物草紙」

作家 山田風太郎
出版日1984年12月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点
(2020/05/13 20:08登録)
 明治二十二(1889)年二月十一日、新政府の文部大臣・森有礼は憲法発布の式典に向かう直前、凶漢に襲われ非業の死を遂げた。その同じ日の夕暮、のちの日露戦争勝利の立役者の一人・明石元二郎陸軍中尉は参謀本部次長・川上操六に、近衛旅団長を勤める乃木少将宅で起こった幽霊事件の解決を依頼される。その真相を見抜き半ば希典を脅すようにして事を収めた元二郎だったが、今度は彼を見込んだ乃木家付きの馬丁・津田七蔵に、大恩ある伊勢神宮の神官竜岡左京の娘・雪香を救ってくれと頼まれた。
 美少女雪香はとかくの噂のある伊勢神道占・稲城黄天なる人物に、巫女となりその身を捧げるよう強要されていたのだ。稲城は幽霊事件にも一枚噛んでおり、さらに森有礼暗殺事件を利用して竜岡神官の弱みを作ったらしい。じつに容易ならぬ曲者のようだ。
 元二郎は七蔵の依頼をも快諾するが、それは彼の前に現れるさまざまな明治の化物と戦うことを意味していた。そしてその化物たちの中には、実に驚倒すべき大化物もいた――
 「週刊読売」昭和54(1979)年12月2日号より掲載。後述の理由により翌昭和55(1980)年6月15日号にて、結末まで2/3余りの段階で中絶。そののち四年の歳月を経て部分訂正及び加筆の末、昭和59(1984)年12月に文藝春秋社より刊行。明治もの第五作『明治波濤歌』とは、ほぼ並行連載されました。
 中絶理由は関係者の抗議。山縣有朋・桂太郎・松方正義・犬養毅・原敬・後藤新平・頭山満など明治の政界に食い込み"日本のラスプーチン"と言われた「穏田の行者」飯野吉三郎と、かれの愛人で他にもとかく醜聞のあった女性教育者・下田歌子。明治ものには珍しい濃厚な濡れ場シーンや完全な悪役扱いもあって、めでたく連載中止に。それぞれ稲城黄天、下山宇多子の仮名を用いることにより、なんとか許可されています。
 現行本はそれに第十一章「ラスプーチン来る」以降の章を書き加えたもの。とはいえラスプーチンが文豪チェーホフから病死した雪香の母・水香の手紙を託されるのは連載中のことであり、構想に大きな狂いは無いでしょう。下山宇多子の影は後半いささか薄くなっていますが。
 風太郎得意の短編連鎖形式ではなく、どちらかというと長編に近いもの。型破りの快男児・明石元二郎が前半では稲城黄天と、後半では密かに来日したラスプーチンと対決する趣向。最初は緩めの展開ですが、徐々に大津事件を背景にしたロシアの怪僧の狙いが明らかに。人間入れ替えにプラスしての操りで、さらに水香の運命や宇多子の狂態、加えて黄天の予言を重ねることにより、ラストでの雪香の凄艶さやそれを引き出した妖僧の魔力を際立たせています。最後付近は釣瓶撃ちでしたね。
 とはいえ明治物名物のクロスオーバーで他に光るとこが冒頭部、ニコライ堂の屋根シーンくらいしかないので6点。ただ稲城が弱みを拵える手口は、しょせん口先三寸とはいえ興味深いです。実際の詐欺師も多分こんなんなんでしょうね。

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