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ミステリの祭典

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エドの舞踏会
明治もの

作家 山田風太郎
出版日1983年01月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点
(2020/02/01 06:57登録)
 明治十八(1885)年十一月五日のこと、帝国海軍少佐・山本権兵衛は陸軍中将・西郷従道(隆盛の実弟)に見込まれ、妻の登喜を伴う鹿鳴館舞踏会への出席を懇請される。けれど元品川遊郭のお女郎だった彼女は前身を恥じて拒否し、権兵衛は従道を大喝した。
 だが、事はそれでは収まらなかった。従道はその翌月海軍大臣となったのだ。さらに権兵衛は西郷直属の「伝令使(大臣秘書官)」を命じられる。
 舞踏会への上流婦人の集まりの悪さを嘆く従道はある策を講じ、以前の行き掛かりから権兵衛にその実行を押し付けてきた。それを切っ掛けに、彼は心ならずも貴婦人たちの秘話に触れることとなる。それは維新元勲の妻を巡る〈舞踏会の手帖〉の始まりだった――
 雑誌「週刊文春」昭和57(1982)年1月7日号~同年10月4日号まで掲載。『明治波濤歌』に続く明治もの七作目。後半部分は朝日夕刊『八犬傳』の連載とかぶります。
 登場するのは伊藤博文・井上馨・山県有朋の三元勲に加え黒田清隆(例のごとく血腥くなります)・大隈重信その他八名の夫人連。序盤に井上伊藤妻のちょっといい話を並べ(伊藤梅子こと芸者のお梅の痛烈な啖呵は痺れます)、中盤に山県黒田妻の怖い話を持ってくる。特に鬼気迫るのは西洋かぶれの文部大臣森有礼の妻・常子のエピソードで、ホントかよと調べたら間違い無しの実話でした。〆のル・ジャンドル夫人池田絲(幕末四賢候の一人・松平春獄の庶子)といい、風太郎作品の考証はハンパ無い。この天覧歌舞伎により、業界の地位が格段に向上したそうです。
 ワキを固めるのはマダム貞奴、加納治五郎、西郷四郎、頭山満(サナダ虫)、伊庭八郎、九代目市川團十郎、など。この作者にしては珍しい女性群像メインの作品で、他の明治もののような大仕掛けはない代わりに纏まりが良い。女性陣のかっこよさやエンディングの美しさはかなりのもの。シリーズの四、五番目くらいには入るんじゃないかな。
 反面夫である元勲たちにはコケますね。伊藤博文みたいに一周回って妙な味の出てる人もいますが。大久保利通―川路利良のラインを最後に、英雄の時代は終わったということでしょうか。最後の内戦である西南戦争も十年余り前の話なので。
 タイトルの〈エド〉とは江戸のこと。あまり取り上げられることはありませんが、中身の割にくどくなくしっかりした作品です。

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