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ミステリの祭典

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六本木心中(角川文庫、ナショナル出版 版)

作家 笹沢左保
出版日1971年01月
平均点8.00点
書評数1人

No.1 8点 クリスティ再読
(2020/01/30 14:54登録)
本作を誰も評してないのが不思議である。笹沢左保でも「木々高太郎、殺す!」で有名な、直木賞で当確視されても落選し、選考が疑問視されたエピソードがあるくらいの名作短編集である。ミステリでなくて風俗小説、と言われがちなのが影響しているかな。
でも、どれもこれも広い意味でのミステリ、ホワイダニットと言っていいくらいにミステリ寄りの作品である。笹沢左保はミステリから離れて書いたわけじゃなくて、積極的に人間心理の機微とか綾とかを「人間の謎」として提示しようとしてこういう小説になったんだと思うんだよ。メグレが好きな人なら絶対に面白く読めると思う。
そりゃいわゆる「風俗」は古くはなる。表題作「六本木心中」ならいわゆる「六本木族」それこそ「野獣会」とかね、たとえばヒロインのレストラン経営者の娘を、不思議少女だった加賀まりこをイメージしてもいんだろう。このヒロインの妊娠を咎められて、恋人(昌章...堺正章?)がレストラン(飯倉キャンティ?)経営者の母親を殺したと自首。ありふれた話のように見えてそれをひっくり返しただけではないオチを付けて、いいようもない空虚な愛を示す作品なんだから、題材は本当に普遍的で、小説としての冴えを存分に楽しむことができる。
実際この短編集は「純愛碑」「向島心中」「鏡のない部屋」「銀座心中」とタイトルを並べてみただけでも「事件性」がちゃんとありそうなものばかり。それぞれ「殺人」というわけではなくても、人に言えない秘密を抱え、偶然のきっかけで思いもよらぬ方向に運命が変わり、行為の裏には見かけによらない真実がある...そういう話の5連発である。
「殺人」がまったく偶然事に過ぎないことで、逆に小説として成立するアンチ・ミステリな作品だって含まれているんだよ。これは、凄いことだ。
ぜひぜひのおすすめ作品である。

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