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ミステリの祭典

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幽玄の絵師 百鬼遊行絵巻

作家 三好昌子
出版日2019年09月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 小原庄助
(2020/01/28 10:20登録)
応仁の乱前夜の混迷の時代、将軍に仕える御用絵師の土佐光信が、さまざまな怪異にかかわっていく。
本書は連作のスタイルで進行する。土佐流の天才絵師・光信は「心の壁」を持たないため、人ならぬ存在と通じ合う。冒頭の「風の段」では、造営された室町御所に移った8代将軍足利義政から、判じ物(謎解き)のような言葉を与えられ、絵を描くように命じられる。御所にある梨の木の精の力を借りた光信が、義政の過去と、その胸中を知るのだった。
なぜ義政は、荒廃した世の中に背を向けて、作事作庭に耽溺したのか。義政の乳母の今参局が処罰された騒動には、何が隠されていたのか。作者は史実を絡めながら、義政の抱えた絶望に迫っていく。
以後の話の多くも、時代の争乱の中から生まれた人の心の悲しみが、人ならぬ存在を呼び、奇怪な騒動へとつながっていく。その結果が、応仁の乱であったのだ。実在の絵師を巧みに使い、ホラー小説の手法で時代を見つめた、新鋭の意欲作といえよう。

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