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ミステリの祭典

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珈琲城のキネマと事件

作家 井上雅彦
出版日2019年11月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2020/01/27 14:59登録)
(ネタバレなし)
 茗荷谷駅から少し歩いたところにひっそりと佇む西洋館。そこは名画座を改装した古式ゆかしき喫茶店「喫茶 薔薇の蕾」であった。同所に集うのは、珈琲と、旧作を中心とする映画、そして謎解きを愛する常連客たち。若手刑事の春夫とそのGFで新聞文化欄の記者・秋乃は、おのおのが抱えた謎をその場に持ち込み、やがて新たな来客が抱える事件にも関わっていく。

 一般には、ホラー主体の作家&ホラー&SFをはじめとした映画研究家として知られる作者・井上雅彦。その井上が、すでに伝説の一冊として知られる新本格パズラー『竹馬男の犯罪』以来、四半世紀ぶりに書いた純正のミステリ。
 今回の仕様は書下ろしの一編をふくむ全五本の連作短編シリーズで、第1~4話までは「ジャーロ」に連載されたもの。
 各話の体裁は不可能犯罪? をふくむ怪異&奇妙な謎が持ち込まれる→黒後家蜘蛛の会のごとく常連メンバーが意見を出し合う→やがて意外な真相に……という王道パターン。
 ただし本作のミソは、登場人物の大半が映画マニアの作者の分身ともいえる連中なので、各話の事件から、旧作映画のなかに使われた珍奇な特撮または特殊技法的なトリックを連想してそのトリヴィアを披露。そこからのフィードバックで事件のトリックを見破る、という流れが基本になっている。
 本書の賞味は、この映画トリヴィアを楽しめるかどうかも大きなポイントで、たとえば第一話の狼男の殺人? 事件などはミステリとしてダイレクトに真相に向かえば割とあっけない気もするが、そこに旧作ユニバーサル映画『狼男の殺人』で使用されたある映画撮影上の広義の特撮トリックをからませることで、話の立体感を引き出している。
 当然、(あまりにもいろんな表現が可能になった)CGが全盛となった現代とは違う、手作り&別種の創意の技法が映画に用いられていた時代のトリックが各編の主題なので、それぞれの物語の目線は全般に過去の昔日に向かうが、そこもまた本書の魅力となっている。その意味では事件の内容と、そこに関連する映画のファクターから昭和の時代に接近する第三話と第五話が個人的には味わい深かった(特に前者の、未来世界風の異世界と非現実的な真紅の怪人の出現、それに応えた最後の謎解きに至る流れはニヤリ)。
 かたや第四話のトリックなんかは数年前に別の若手作家の新本格パズラーで同じネタがあったが、こちらもある有名な人気映画の意外な? 技法を介してその真実を語る作劇のおかげで、なかなか新鮮な気分で楽しめた。

『竹馬男』とはかなり方向の違う連作パズラーだが、これはこれで作者らしさが出た一冊。連作としての物語は最終編をもってひと区切りっぽいが、続きは書こうと思えば書けると思う。また気が向いたら&ネタがたまったら、続編をお願いします。

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