home

ミステリの祭典

login
さまよえる湖の伝説

作家 伴野朗
出版日1985年12月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点
(2020/01/20 13:18登録)
 十一月七日早朝、熱海のゴルフ場で顔面を烏に啄ばまれた男の死体が発見され、目撃者の証言その他から香港の貿易商・鄭瑞光(チョンルイコアン)と断定された。鄭はアメリカ国家安全保障会議のブレーンでSDI(スターウォーズ計画)に不可欠な楊昌喜(ヘンリー・ヤン)博士を裏切り、CIAに粛清されたのだった。
 一方、城東大で古代西域史を教える考古学者・古賀恭は、露天の古本屋で『もう一つの大谷探検隊の記録』と題された手記を見つけ、月刊誌に十五枚ほどの随筆を発表する。スウェン・ヘディンの中央アジア学術探検が全世界を湧かせたのと同時期、それを上回る規模で行われた浄土真宗本願寺派の探検記録は、彼にとって興味深いものだった。
 だが手記の存在が明らかになるや、古賀の周囲に不気味な影が纏わりつき始めた。果たして、手記に隠された秘密とは何か?
 1985年発表。著者お得意の冒険スパイ小説で、ミステリとしては中期にあたるもの。年譜を見ると、この頃から徐々に歴史小説の割合が増えていることが分かります。
 タイトル通りタクラマカン砂漠の東にひっそりと横たわる〈幻の湖〉ロプノールを背景にした作品で、SDI計画の成否を握る架空の物質〈チザニウム〉を巡る虚々実々の政略・争奪戦を描いたもの。ソ連邦を代表する科学者・エランスキー博士父娘の亡命計画に端を発するCIA対KGBの諜報戦を軸に、日米中ソ各陣営の主役たちが描写され、そのあと一気に彼らが集う『四ヵ国合同ロプノール探査隊』での決着へとなだれ込んでいきます。
 ただし肝心の出来はいま一つ。作者あこがれの題材という事もあり決して書き飛ばしてはいないのですが、ストーリーには悪ズレというかパターン化が見られます。エスピオナージ部分より楼蘭冒険行の方が面白く、そこまで持っていくのに筆を割き過ぎた感があります。この部分が倍ほどもあればまた違ったかもしれませんが。
 主人公の古賀が完全な巻き込まれ型で、あまり魅力がないのもマイナスでしょう。作風の転換期ということもありお薦めできるものではありません。前回書評した1989年発表作品『北京の星』の方が力が入っています。

1レコード表示中です 書評