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ミステリの祭典

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推理小説雑学事典
中村勝彦 監修

作家 事典・ガイド
出版日1976年06月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 おっさん
(2020/01/13 15:26登録)
懐かしい本。
慶應義塾大学推理小説同好会のメンバーが分担して執筆し、同会の顧問だった中村勝彦教授が監修した――といっても、同人誌のたぐいではありません。
筆者が子供の頃、町の小さな本屋さんを覗くと、趣味や実用の新書本が、結構、棚を占めていた記憶があります。
KOSAIDO BOOKS のコーナーで、『鉄道雑学事典』や『プロ野球雑学事典』と並んでいたのを見つけた本書は、背伸びして大人向けの推理小説に手を出し始めていた小学生には、格好のガイドブックになってくれました。
昭和51年、といっても、いまではもう、ピンときませんかね。西暦1976年のことです。

章立ては、こんな感じ。

 第一章 推理小説の創られ方=作家の秘密
 第二章 本格推理アラカルト=何をどう読むか 
 第三章 完全犯罪学講座=裏から読むトリック
 第四章 魅力の名探偵解剖=人物を捜査法を
 第五章 マニアの読み方、楽しみ方=知恵の遊び

トリックのネタバラシのオンパレードでありながら、具体的な作品名には言及せず、完全犯罪を目指す読者への実用講座という体裁をとった第三章も楽しいのですが(「補講」として、もし完全犯罪が失敗し、逮捕されたときのために、脱獄トリックをまとめた「脱獄の手引き」が最後に用意されているあたりのユーモア・センス)、ませた子供だった筆者をいちばん刺激したのは、第五章のなかの「入手困難な推理小説」という絶版本ガイドでしたw
どんな時代だったかを端的にしめす文章があるので、引いておきましょう。

 ミステリーの女王クリスティーには四作絶版のものがある。『ホロー館の殺人』『チムニーズ館の秘密』の他、ポアロ登場の中期名作『白昼の悪魔』、ミス・マープル最初の事件『牧師館の殺人』はマニアには見逃せない。クリスティーには八〇作以上の作品があり、その全部が訳出されているわりには、簡単に手に入らないのがたった四作。非常に恵まれた作家だ。(引用終わり)

まあ、そんなわけですから――
ガイドブックとしての歴史的使命(?)は終えた本です。
本サイトの掲示板で物議を醸した、エスカイヤー誌のわけありの「ハードボイルド探偵比較表」を、よく調べもせず、出典も明記しないまま、勝手に転用したような「罪」の部分もあります。
しかし、推理小説に興味を持ち出した小学生を、次なるステージに誘い、マニアへの一歩を踏み出させる、そんな「功」もあったことは、証言しておきたいと思います(それも「罪」だというキミは、外へでなさい)。
採点は、そうした感謝の意味を込めて、です。

願わくは、いまの子供たちにとって、そうした存在となりえる本があってくれますように。

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