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ミステリの祭典

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黒いヴァイキング

作家 谷恒生
出版日1979年04月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点
(2020/08/29 11:40登録)
 南米大陸全土を、旧ナチスのUボートを駆って神出鬼没に荒らしまわる謎の強盗団――黒いヴァイキング。目撃者の話によるとかれらは黒塗りのオートバイで疾風のように現われ、銀行や宝石店を襲い金品を強奪、各地の過激派解放組織に重火器をはじめとした武器を調達しているという。
 他方、雑多な国籍の食いつめ船員が乗りこみ、ヴァイキングの影が蠢く騒乱直前のペルーへ向かう全長二七〇メートル、八万二〇〇〇噸の大型石油タンカー、パシフィック・エンジェル号。この船の一等航海士に雇われた左門悠介は寄港地ロング・ビーチで罠にはまり脅迫され、鋼鉄の箱を船に積みこまされる。そして出航直前、ペルー寄港を渋る英国人船長ターナーの溺死体が港に浮かんだことから、左門は急遽船長に昇格させられた。陰謀渦巻く中、彼を待ちうけていたものは……
 巨大な利権に各国の政治状況が複雑にからみ、欲望がぶつかり合う。雄大なスケールで展開する長編海洋アクション。
 昭和五三(1978)年六月一二日から同年一一月二五日まで「報知新聞」紙上に連載され、加筆・修正を加えたのち翌年四月二五日に刊行された、谷恒生の第6長編。船戸与一『山猫の夏』とほぼ同時期の発表で、内容的にも共通するものがありますがあまり出来は良くありません。
 豊富な国際知識や実体験から来る航行描写は流石の一言ですが、大筋や真相は通俗風というかカキワリ的。主人公は左門悠介単独ではなく、彼の旧友で総合商社・丸池物産のロサンジェルス駐在員・織口駿との二頭立て。CIAやペンタゴンを操り南米ゲリラともコネクションを持つ超エリート貿易マン・加賀山健吾の策謀を軸に、国際商社の駒として動かされる部下の織口と、罠に嵌められた左門の反撃が交互に描写され、騒乱の巷となったリマで両者の軌跡が交わり決着します。
 ダブル主人公はいいんですが、織口・左門共に状況に乗せられた感が強く、そんな所に虐げられたインディオの悲願とかブチ挙げられてもちょっとピンと来ません。『北の怒濤』と違ってキャラクターの芯になるものが弱いですね。まだ前者は船長のプライドがあるからマシですが、後者は只の商社マンで流されてるだけ。単なる背後関係の説明役に過ぎないので、作劇としてこれは不味い。むしろ織口は捨てて、お目付け役としてタンカーに乗り込むルイシー・アレンや、ミューロー二等航海士にもっと比重を置けば良かったと思います。
 1980年に二ヶ月間インドシナ半島を放浪してから作風が変わっていくそうですが、読んだ感触では本書あたりから既に濫造の気配があります。冒険小説以外にも推理アクション・伝記小説・架空戦記・時代小説と書き飛ばした作家ですが、読むに耐え得る作品は予想より少ないかもしれません。

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