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ミステリの祭典

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見知らぬ町の男
私立探偵マイケル・シェーン

作家 ブレット・ハリデイ
出版日1961年01月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2020/01/02 04:18登録)
(ネタバレなし)
 遠方の町モビルの友人のもとで、一週間の休暇を楽しんだ私立探偵マイケル・シェーン。彼はその夜、自宅兼事務所のあるマイアミまであと三時間というところまで車を走らせていた。シェーンは初めて足を踏み入れる、人口約4万人の町ブロックトンのバーで一服しかける。だが店内に現れた美しい娘が訳ありげにシェーンに話しかけ、さらに彼女と入れ替わるように荒事師風の男が二人登場。男たちは店の表に連れ出したシェーンを失神させ、轢死に見せかけて謀殺を図った。必死に窮地を脱したシェーンだが、初めて訪れた町、たまたま入ったバー、見も知らぬ女、何もかもが殺される理由には結びつかなかった。シェーンはわずかな手がかりを頼りに、独自の調査を始めるが。

 1955年のアメリカ作品。マイケル・シェーンシリーズの長編第25弾で、日本に紹介された正編の中では比較的後期の一冊。当然ヒロインは二代目の、秘書ルーシイ・ハミルトンに交代している(すでに完全に恋人関係みたい)。
 なぜ何のゆかりもないたまたま訪れた町でシリーズ探偵の主人公が狙われたのか? キーパーソンらしきゲストヒロインの行動の意味は? という冒頭の謎(一種のホワイダニット)が結構なフックとなる。さらにシェーンがブロックトンの町で調査を進めるうちに、ある女性の事故死事件、さらに青年地方検事補の焼死事件などが浮かび上がってきて、それらの出来事がどう結びつくのかの興味で、全編のテンションはなかなか高い。約180頁と短い紙幅だが、それだけにストーリーの凝縮感はかなりのもの(さらにルーシイが留守番をしている事務所の方にもちょっとした事件が生じ、そういう趣向を介しての物語的な立体感も備わっている)。
 ミステリ全体としてはある種のホワットダニットの系譜で、真相となる地方都市の悪事そのものは底が割れればやや凡庸だが、そこまでのジグソーパーツを順々に並べていく手際、少しずつ事件の実体を明らかにしてゆく筋運びは見事な職人芸。謎解き要素をはらんだ軽ハードボイルドのエンターテインメントとしては水準以上の秀作であった。
(序盤のメインゲストヒロインとシェーンの接触の真相も、個人的にはなかなか面白い着想に思えた。)
 
 以下、もろもろ思うこと。
・ポケミス裏表紙のあらすじが例によって適当。シェーンは休暇を楽しんだのちマイアミに帰ってきて途中でブロックトンに寄るのだが、裏表紙では「仕事を終えてマイアミに帰る途中」とある。本文しっかり読んでないだろ、当時の編集。

・(やや分からず屋の)地方警察に拘留され、とりあえず釈放されるために妙に下手に出るシェーンがちょっと悲しい。シリーズが進んで角が丸くなった感じ。

・ポケミス126ページ目に、ゲストヒロインとシェーンの会話で
「女をひっぱたいたり、服をおっぱがしてまわる私立探偵? 映画にでてくるマイク・ハマーみたいに……」
「ぼくは、マイク・ハマーとはちょっと違う」
 というのが出てきて爆笑した。ここで話題にされたハマーの映画って当然、本作と同年(1955年)に公開の『キッスで殺せ!』(ロバート・アルドリッチ監督作品)のことだろーな。

・ネタバレになるからくわしくは言わないけど、シェーンシリーズのファンにとって一番嬉しかったのは、ポケミス150ページの下段で、シェーンがメインゲストヒロインに向かって告げたさる一言。めちゃくちゃ泣けた一言ではあったが、それだったら序盤の当該シーンでも、もうちょっとソレっぽくシェーンの内面をチラリと描写しておいて欲しかった。シェーンシリーズは一人称でなく三人称なんだから、主人公の内面の覗き込みの深浅もけっこう自在にできると思うんだけれど。でもなんかこの辺の不器用なところが、妙にハリディっぽい、シェーンシリーズっぽい気もしないでもない。

・終盤、ある職業を突き止めるのがミステリ的な興味の上での重要なポイントとなるが、そこに至るまでのシェーンの推理の論理。これは言語感覚的に、まず日本人にはわからないね。向こうの人(現地のアメリカ人)でも、この説明で納得がいったのかどうか、ちょっと疑問も覚える。

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